「人権」とは、人類が長きにわたる歴史的努力の果てに獲得した概念だ。しかし、この日本ではふしぎなことに、いともあっさり見捨てられることがある。世界各地の紛争現場で武装解除を指揮してきた伊勢﨑賢治氏には、先の都知事選で見過ごせないことがあった……。
文/伊勢﨑 賢治(紛争屋)
人権の二重基準が生まれる時
人権の二重基準。
そんなものがあっていいわけがない。
でも、それを恣意的につくることがある。非常時、つまり緊急事態だ。
私は長年、紛争国の和平交渉を生業にしてきた。武装解除だ。敵対する武装勢力の間に入って行って、とりあえず銃を置いて将来を考えろと説得する。
ここで人権を停止する。
当たり前だ。こやつらが犯してた戦争犯罪を裁くとここで話題にしたら、銃を置くわけがない。
アフガニスタンでは、アルカイダより、そして今の「イスラム国」より極悪非道な連中の人権侵害を、武装解除と引き換えに、問わないだけじゃなく、連中に恩恵まで与えた。
こやつらは、今でも政府に君臨している。こやつらを味方に付けておかないと、アメリカとわれわれはグローバルテロリズムと戦えないからだ。
人権の、平和と引き換えの二重基準。平和のための戦争のための二重基準。緊急事態ゆえの二重基準。
こういう時に、われわれ「平和の使者」は、人権派から糾弾される。Culture of Impunity(罪が罰せられない文化)を蔓延させる悪魔だと。
われわれは、涙を飲んで、人権の二重基準を実行する。人権の重さをわかっているから、やたらに緊急事態をつくっちゃいけないとわかっているから、寡黙に実行するのだ。
だから、悪魔の分際でも、襟を正して言わせてもらう。平和時に、憲法が機能する時に、緊急事態をつくっては、絶対に、絶対に、ならない。
ところが、平和な日本で、これが簡単につくられる。先の都知事選でも、それが露わになった。
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