学術研究と軍事 科学者は転用に警戒を
戦争や軍事を目的とする科学研究は行わない。科学者の代表機関である日本学術会議は、戦後、2度にわたる声明で宣言している。
戦時中の戦争協力への反省に立ったもので、この規範にのっとり、大学などの科学者は軍事研究とは一線を画してきた。
その大原則が揺らごうとしている。学術会議は6月から、「安全保障と学術」の関係について検討を始めた。声明の見直しもテーマになるというが、安易な変更には反対だ。
検討のきっかけは、防衛省が昨年度から開始した新制度だ。大学などの研究者を対象に、防衛装備品に応用できる先端研究を公募し、審査した上で研究費を配分する。昨年度は109件の応募があり9件に配分した。今年度は44件の応募から10件が選ばれた。年間最大3000万円が原則3年間支給される。
制度の背景には、軍事にも民生にも使える「デュアルユース(軍民両用)技術」を活用したい政府の意向がある。防衛省が内部で行う技術開発にはコストがかかり、人材も必要だ。その不足を補うため大学などの「外部資源」を利用する戦略と考えられる。
一方、大学側の事情を考えると、学術研究に自由に使える交付金は減り続けてきた。文部科学省が基礎研究に配分する助成金も頭打ちだ。防衛省の新制度は、研究費が足りない研究者の弱みを利用しているのではないだろうか。
研究の中身が公開されていれば問題ないとの見方や、自衛技術に限定すればいいとの声もある。しかし、軍事応用されれば非公開の部分が出てくるだろう。使い道を研究者が限定することもむずかしい。研究費を受け取れば、防衛省の方針に異を唱えることもできなくなる。
軍事用技術と民生用技術の線引きは難しく、軍事転用できる研究の否定は時代にあわないという考えもあるだろう。しかし、線引きが難しいからこそ、なんらかの基準を採用する必要がある。そして、基本的な基準になるのは研究費の出所以外に考えられないのではないか。
防衛省の制度自体の問題は大きいが、研究者側も自分の研究が軍事転用される可能性には自覚的であってほしい。基礎研究を行っただけで使い方には責任を負えない、と言うだけではすまされない時代だろう。
研究費の出所によらず、成果の使い道に一定の歯止めをかける方策を考えることも必要かもしれない。独立した監視機関の設置もひとつの手法として考えたい。
もちろん、これは科学者だけの問題ではない。一般市民も関心を持ち、発言していくことが大事だ。