受動喫煙の防止 東京五輪機に対策急げ
2020年東京五輪・パラリンピックに向け、受動喫煙防止策の強化が求められている。「たばこのない五輪」をうたう国際オリンピック委員会の意向で、近年の開催地は、屋内禁煙などを定めた罰則のある法令を整えて本番を迎えた。
日本は03年施行の健康増進法による防止策があるが、努力義務にすぎず緩い内容だ。政府は今年初めに省庁横断の組織を設け、新法による対策強化の検討を始めた。飲食店などに早めの準備を促すためにも、対応を急がなくてはいけない。
たばこの煙にはダイオキシンなど約200種類の有害物質が含まれ、受動喫煙を強いられる人への影響も見すごせない。脳卒中や狭心症、ぜんそくなどさまざまな病気の危険を高めると言われる。世界保健機関(WHO)の推計では、たばこの害で毎年約600万人が亡くなり、うち60万人が受動喫煙の影響という。
こうした状況をふまえ、03年に採択された「たばこ規制枠組み条約」に基づくWHOの受動喫煙防止の指針は、屋内の完全禁煙を掲げる。そして五輪開催地もアテネ大会以降、屋内を原則禁煙とする罰則付きの法律や条例を持つ国・都市での開催が一つの流れとなった。
ただし完全禁煙の範囲は濃淡もあり、08年の北京、14年冬季のソチは飲食店を対象にしなかった。一方、リオデジャネイロは09年から、州条例によって飲食店を含めた屋内での全面禁煙に踏み切っている。
日本で罰則付きの条例があるのは神奈川と兵庫両県だ。だが、飲食店やホテルなどは「禁煙あるいは分煙」で禁煙の義務付けではない。東京都は昨年、有識者会議で罰則付き条例の制定を検討したが、客離れを心配する飲食店やたばこ業界の反発もあって、結論を先送りした。
厳しい法規制に反対する理由として、受動喫煙策がすでに十分に機能しているとの声もある。日本の喫煙率は年々低下し、「路上禁煙や分煙などの取り組みも進んでいる」との主張だ。日本たばこ産業の今年の調査によると、男性の喫煙率は初めて3割を切って29・7%となり、男女合わせて19・3%だ。
しかし、医療関係者の多くは、分煙の方法として欧州では密閉空間で減圧した部屋の設置を求めている例をあげ、「日本で多く見られる簡単な仕切りなどは名ばかりの分煙にすぎず、受動喫煙は防ぎきれない」と指摘する。また分煙はそもそも、喫煙可能場所に出入りしなくてはいけない飲食店従業員らの健康を考慮しない問題含みの対応策と言える。
他人のたばこの煙を吸わずにすむ環境を整えるのは、五輪開催地としての責務である。