カノンコード(カノン進行)とは、ヨハン・パッヘルベルのカノンで出てくるコード進行のことである。
概要
ヨハン・パッヘルベルは音楽史で言うところのバロック期 (バロック音楽) の作曲家である。この時期はコード進行という考え方がなかったのはもちろんのこと、いわゆる和声の概念すら黎明の時代であった。パッヘルベルはこの時代に支配的であった対位法の理論を用いてカノンを作曲した。この理論が和声の理論を経由しコード進行の理論に組み込まれたのがいわゆるカノンコードである。
王道進行 (IV△7→V7→IIIm7→VIm) よりも遥か前に完成され、なおも用いられ続けていることを考えると、カノンコードも王道中の王道な進行と言える。
カノンコードの型式
(1ループ目が単純コード、2ループ目がトップノートを主旋律としたクリシェ。)パッヘルベルのカノンは D-A-Bm-F#m-G-D-G-A という進行をベースとした輪唱である。7番目のGの箇所において1度及び2度の音が登場するため D-A-Bm-F#m-G-D-Em7/G-A もしくは D-A-Bm-F#m-G-D-G6-A とも解釈できる。
この I-V-VIm-IIIm-IV-I-IV-V の進行を俗にカノン進行と言う。最初のトニック(I)において3度の音をトップノートとすると、滑らかな下降ラインを描くことができ、これはパッヘルベルのカノンの第1バイオリンが最初に奏でる旋律でもある。
非常に心地よく響く、安定感のあるコード進行であり、現代でも多くの歌謡曲で用いられる。作曲初心者にとっても避けては通れない定番の進行である。ある程度耳が肥えた者ならば、初めて聴く曲でも I-V-VIm-IIIm という進行が来た時点で「あ、カノンだ」と連想することだろう。
亜種・派生
- I-V-VIm-IIIm-IV-I-IIm7-V7 (I-VonVII-VIm-IIImonV-IV-IonIII-IIm7-V7)
- (2ループ目はベースラインクリシェ)
- カノンコードの別解釈で、IVをIImに置き換え、いわゆるツーファイブ進行にしたもの。カッコ内のようにベースラインを半音ないし一音ずつ下げていくパターン (クリシェ) も多用される。IVおよびIImは共にサブドミナントであり、トニック、ドミナント、サブドミナントの関係は崩れていない。この循環に組み入れられた IIm7→V7(→I) という進行はツーファイブと呼ばれ、強い帰着感を生む定番の進行である。本来IIm7とすべき個所を非ダイアトニックなII7とするドッペルドミナント(ドミナントのドミナント、ダブルドミナント)を用い、ツーファイブよりも更に帰着感の高い進行とすることもできる。
- など
- I-V-VIm-IIIm-IV-V-I-V7
- 前半はカノンコードであるが、後半のドミナントとトニックを入れ替えたもの。マンネリ化を防ぐため後半のドミナント-トニック関係を組み替えたものである。途中に挟まれた IV→V→I の動きは IV→I よりも強い帰着感を生むが、再度ドミナントへ移動させることで意外性を引き起こす。最後のV7をIに置き換えて終止させるパターンもある。
- など
- I-V-VIm-IIIm-IV-I-V-V
- (2ループ目は最後を Gsus4-G としている)
- カノンコードの最後のIV-VをV-Vにしたもの。いきなりVに入ることで意外性を生むが、V-Vの並びが単調になってしまうので合いの手 (オブリガートとかフィルインとか) でごまかしたり、 V7sus4-V7 と変化を付けることがある。(あえてごまかさない手もあるけど)
-
- Basket Case (グリーン・デイ) - Aメロ
- など
- I-V-VIm-IIIm-IV-IVm-V-V
- 前項のIV-IをIV-IVmにしたもの。Iを経由しないことで緊張感を持続させる進行。この場合、IV→IVm→V の進行において 長6度→短6度→完全5度(トニックがCmajのときA→A♭→G) の動きを聴かせるクリシェとなる。V-Vの部分を合いの手でごまかしたり、 V7sus4-V7 と変化を付けることがある点は前項と同様である。
- など
- I-V-VIm-IIIm-IV-I-VI♭-V
-
7つ目のIVをVI♭に置き換えたもの。 VI♭-Vの進行はフリジアン・ケーデンス (アカデミックな書物ではフリギア終止) と呼ばれている。
- など
- I-V-VIm-IIIm-IV-I・VI-IV-V
- カノンコードの途中のトニックコードに動き (I→VI) をもたせたもの。 (中点は小節内でのコード進行)
- など
- I-V-VIm-IIIm-IV-I-IIm7-III7 (I-V-VIm-IIIm-IV-I・IV△7-VIIm7-5-III)
- カノンコードの最後を平行調 (調号が同じ短調) へ転調させたもの。 (中点は小節内でのコード進行)
- など
- I-V-VIm-IIIm-IV-I-VII♭-V
- 7つ目のIVをVII♭で置き換えた例。IVはサブドミナントであるが、これをトニックとみなした場合はVII♭がサブドミナントとなり、これをドッペルサブドミナント (ダブルサブドミナント・二重下属音) という。ダイアトニックコードに含まれないコードを挟むことで注意を引く方法と言えるだろう。
- など
他の汎用コード進行との併用
サザンオールスターズのTSUNAMIのAメロのように、前半をカノンコード、後半をIV△7→V7→IIIm7→VImにした
などの進行もよく使われる。
また、カノンコード系の各進行の5つめと6つめ (IV-I) をIV△7→V7→IIIm7→VIm系のコード進行に置き換えるパターンもよく用いられる。
- となりのトトロ - 間奏: I-V-VIm-IIIm-IV・V7-IIIm7・VIm-IIm7-V7(11)
- 歌に形はないけれど - Aメロ・サビ: I-V-VIm-IIIm-IV・V7-IIIm7・VIm-IV(M7)-V
- さくらんぼ(大塚愛) - サビ: I-V-VIm-IIIm-IV・V-IIIm7・VIm-IIm7-V
など(いずれも ハイフン=小節線、中点は小節内でのコード進行)
その他、解決進行やツーファイブを組み込んだカノンコードも重用される
上掲動画の中間メロディ (?) はカノンコードの一部を解決進行に置き換えたコードが用いられている (その他のメロ部分はトニック・IV△7→V7→IIIm7→VIm・ツーファイブの定番フルコースである) 。
↑の冒頭サビは基軸はカノンコード、「始めよう(ー) やればできる」の青地部分がツーファイブの組み込みとなっている。また、1サビの「歌を歌おう(ー) ひとつひとつ」も同様にツーファイブの併用、「ひとつひとつ 笑顔と涙は夢」が既述IV△7→V7→IIIm7→VIm系コードの置き換えである。
短調のカノンコード
以上はほとんどが長調 (メジャー・スケール) の曲における事例であったが、短調においても同度のコード進行を用いることができる。
たとえばイ短調 (a minor) では次のようなコードとなる。
君をのせてや悪ノ召使のサビでこの短調バージョンのカノンコードを聞くことができる。また、中島みゆきの「地上の星」や「銀の龍の背に乗って」などで、既述の亜種・派生コードの短調版をうかがうことができる。
↑本家でやるとこうなる。
関連動画
カノンコードタグがついた動画は多数あるが、その全てがカノンコードにあたるとは限らない。次に挙げる2つの動画も、原曲がカノンコードでない曲が盛り込まれている。
関連項目
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http://dic.nicomoba.jp/k/a/%E3%82%AB%E3%83%8E%E3%83%B3%E3%82%B3%E3%83%BC%E3%83%89
読み:カノンコード
初版作成日: 09/12/06 23:06 ◆ 最終更新日: 13/05/21 23:36
編集内容についての説明/コメント: 短調のカノンコードを微修正
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