核の先制不使用 理念の後押しが必要だ
米国のオバマ大統領が核兵器の「先制不使用」宣言を検討しているという。相手が核攻撃をしてこない限り核兵器を使わない政策で、実現すれば米核政策の大転換になる。
核の先制不使用は偶発的な核戦争のリスクを回避できる利点がある。米国が先制核攻撃はしないと宣言すれば米国の意図を誤解して核戦争が起きる可能性は大幅に小さくなる。
川口順子元外相とエバンズ元豪外相らアジア各国の元閣僚や学者ら40人が連名で「アジア太平洋の米国の同盟国が先制不使用を支持するよう求める」とする共同声明を発表し、日本に支持するよう促した。
両氏を共同議長とする核軍縮の国際委員会は2009年の報告書で、核廃絶実現までの経過措置として「すべての核保有国が核の先制不使用を宣言すべきだ」と提案している。核の先制不使用は国際的な世論だ。
一方で、核戦力を強化する中露や核開発を進める北朝鮮など日本は核の脅威にさらされている。日本は米国の「核の傘」を自国を守る安全保障の大きな柱にしてきた。
米紙ワシントン・ポストによると、核の先制不使用について、安倍晋三首相は北朝鮮への抑止力が低下すると米側に懸念を伝えたという。
米国がただちに核の先制不使用を宣言した場合、米国の「核の傘」が弱まらないかと懸念を抱くのはもっともだ。反対論は同盟国の韓国や英仏などに加え、オバマ政権の主要閣僚からも出ているという。
しかし、唯一の被爆国として「非核三原則」を堅持する日本が、核廃絶に向けた新たな動きにブレーキをかけるだけでいいのか。問題は、「核なき世界」を掲げるオバマ氏の構想と、核の脅威に対する抑止力を維持するという現実に、どう折り合いをつけるかだ。
中国はすでに核の先制不使用を宣言しており、ロシアも旧ソ連時代は宣言していた。米国が主導する形で米英仏中露の国連安保理常任理事国がそろって核の先制不使用に合意することが最善ではないか。それを後押しするのが日本の役割だ。
仮に米中が合意して宣言しても日本の安全が守られるか疑問が残るが、核保有5カ国が足並みをそろえれば核戦争のリスクは格段に下がる。実現すれば北朝鮮への圧力ともなろう。
オバマ政権は10年に核戦略を見直し、核兵器の役割を低減させる一方、圧倒的な通常戦力の構築で抑止力を維持する方針を示した。
安倍首相はオバマ氏と訪問した広島での演説で「核なき世界」への責任を誓った。「核兵器依存」からの脱却を試みるオバマ氏とともに核の先制不使用につながる環境整備に力を尽くすべきだ。