オバマ米大統領が検討している核兵器の先制不使用宣言について、安倍晋三首相が反対の意向を示したという。核軍縮につながる措置になぜ賛同できないのか。核政策の矛盾がまた表面化した。
米紙ワシントン・ポストによると、安倍首相はハリス米太平洋軍司令官と会い、米国が核先制不使用を宣言すれば、北朝鮮などへの抑止力が低下して地域紛争のリスクが高まると懸念を伝えたという。
「敵の核攻撃を受けない限り、核兵器を使用しない」という政策が実現すれば、誤った情報や判断による核攻撃の危険性が減る。さらに、複数の核保有国が歩調を合わせれば、兵器削減にもつながると期待される。
日本政府は米紙の報道内容を確認していないが、水面下で懸念を伝達したとみられる。米の同盟国でも、ウクライナ情勢でロシアと対立する英国やフランス、また北朝鮮の核・ミサイルの脅威に直面する韓国が米の核先制不使用宣言に反対しているという。
それでも、五月末、オバマ氏が広島を訪問し、「核兵器のない世界を追求する勇気を持とう」と訴え、国民の多くは軍縮に向けた、新たな一歩を踏み出したと受け止めた。
日本は安全保障政策を米国の「核の傘」に頼るという矛盾を抱えているが、米大統領の広島訪問を弾みにして、被爆国としての使命をより明確に果たすべきではないか。安倍首相は年内の中国、ロシアとの首脳会談を調整中だが、地域安定とともに核軍縮を促す必要がある。
世界ではいま、核兵器を持たない国々が中心となり、核兵器禁止条約を制定しようという動きが広がる。使用されたら壊滅的な被害をもたらす「核の非人道性」を深く憂慮するからだ。スイス・ジュネーブで国連核軍縮作業部会が開かれ、来年中に条約交渉を開始しようとする報告書を取りまとめている。
日本政府は条約制定でも、慎重姿勢を崩さない。米国の抑止力に頼る以上、核軍縮は段階的に進めるのが現実的と考えるからだ。だが、核の非人道性の議論に踏みこまないと、国際社会の共感は得られないだろう。
オバマ氏は九月にも、国連安全保障理事会で核実験禁止の決議採択を呼びかける考えだ。日本も国連の場で、被爆国として説得力ある発信ができるか、試されることになる。
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