東京メトロ銀座線の青山一丁目駅のホームに立ち、目を閉じる。ラッシュ時。遠くのレール音は雑踏にかき消され、電車は突然、大音響で迫ってくる。

 今週、視覚障害のあった品田直人さんがホームから転落して電車にはねられ、亡くなった。

 「行動範囲を広げたい」と盲導犬と外出し、通勤していた。事故直後、あるじを失った盲導犬ワッフル号が所在なげに現場をみつめていた。

 痛ましい事故の再発を防がねばならない。これは決して、避けられぬ悲劇ではない。

 品田さんは、ホームの点字ブロックより線路側を歩き、足を踏み外してしまった。ホームは幅3メートルほどと狭く、その真ん中を、点字ブロックをさえぎるように柱が連なっている。

 駅入り口からホームまで、どこに階段があり、どこで曲がるか。会社への最寄り駅だったというから、品田さんの頭の中には「地図」があっただろう。

 だが、そうした感覚は、考え事で集中力が緩んだだけで狂ってしまうこともあるという。

 視覚障害者がホームから転落した事故は2014年度に全国で80件あった。日本盲人会連合のアンケートでは、4割がホームから落ちたことがあると答えている。驚くべき数字だ。

 まず有効なのはホームドアの設置だ。国土交通省は、1日当たりの利用客が多い駅などから優先して設けるよう定めているが、設置率はまだ低い。鉄道会社は障害者の意見も反映しながら、整備を急いでほしい。

 ホームドアの設置が構造上難しい駅もある。戦前に全線開業した銀座線では、補強工事が必要なため、設置には18年度までかかる。乗降客が多い渋谷駅や新橋駅は、さらにその後だ。

 何より肝心なのは、障害のある人を見守り、手をさしのべる一人ひとりの行動だろう。危なそうな時には、すすんで声をかける。それは本来、当たり前のことだが、残念なことに、そんな光景はそれほど多くない。

 障害者に限った話ではない。青ざめた顔でホームにかがみこむ通勤途中の会社員、階段を前に途方にくれているベビーカーの親子、手すりにしがみつき一段ずつ降りる高齢者……。

 「大丈夫ですか?」。そのひと言が無関心の空気を変える。

 ワッフル号を育てた北海道盲導犬協会は「犬には声をかけないでとお願いしますが、犬を連れているユーザーには声をかけてほしい」と呼びかけている。

 困っている人がいれば、歩み寄り、助ける。そう誰もが自然にふるまえる社会でありたい。