伊東順子(いとう・じゅんこ) フリーライター・翻訳業
愛知県豊橋市生まれ。1990年に渡韓。著書に『もう日本を気にしなくなった韓国人』(洋泉社新書y)、『ピビンバの国の女性たち』(講談社文庫)等。
7月の初頭、ソウル市の水道局に電話することがあった。口座引き落としという極めて事務的な案件だったのだが、私の名前を告げたら先方がハッとした。
「ひょっとして日本人ですか?」
「はい、日本人です」
「ひゃああ~お話しできて嬉しいです!」
公務員はどこの国もそうだけど、それほど営業的ではない。韓国でも寡黙(無愛想)な人が多く、応対は事務的だ。たまたまこの日は彼の機嫌をよくする出来事があったのかもしれないと思いつつ、担当部署につないでもらい、普通に要件をすました。ところが、最後にもう一度冒頭の彼が電話口に登場してきた。
「実は僕、日本が好きなんです」
ポッと顔を赤らめたかどうかは、電話なので分からない。しかし、少しためらった後に、この男性はきっぱりと言った。
「キムラタクヤのファンなんです」
「えっ……」
言葉につまった私。微妙な空気が流れる。脳裏に浮かんだのは、水道局の作業服を着た40代の韓国男性が、ニコニコしている様子。まずい……。
「そうですか。キムタクのファンでいらっしゃる。それは、どうもありがとうございます」
なんでお礼したのか自分でもわからないが、ともかくそう言って、急いで電話を切った。
日本人ということで、余計な話をされることは、時々ある。最近も、健康保険の手続きに行った役所の窓口で、
・・・続きを読む
(残り:約1771文字/本文:約2376文字)
WEBRONZAではこんな記事も人気です。もう読みましたか?