鳥越氏「女子大生淫行」疑惑は、本当に「取るに足らない」ニュースなのか主要メディアはそろってスルー

2016年07月27日(水) 牧野 洋
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不倫報道を受け、大統領選からの撤退を表明したゲーリー・ハート氏〔PHOTO〕gettyimages

「ハート報道」で一変した米政治ジャーナリズム

「ハート前」の世界では、有力政治家が女性スキャンダルで窮地に陥ることはまずなかった。代表例はケネディ大統領。女優マリリン・モンローを筆頭に多くの女性と浮名を流していたにもかかわらず、主要メディア上では話題にすらならなかった。当時メディア業界は男性中心であり、政治家の不倫を見聞きしても「下世話な話」と一蹴していたようだ。

ところが「ハート後」の世界では、有力政治家の女性スキャンダルが大きく報じられるのは日常茶飯事になった。例えば1998年のモニカ・ルインスキー事件。第42代大統領のビル・クリントン氏はホワイトハウスの実習生モニカ・ルインスキー氏と「不適切な関係」を持ったとされ、最後には弾劾裁判にかけられた。

米国ではハート氏をきっかけに、なぜ政治ジャーナリズムがタブロイド化(日本的に言えば週刊誌化)したのか? そもそもマイアミ・ヘラルド紙はなぜ米報道界のタブーを破って同氏の女性スキャンダルを暴いたのか?

実は2014年10月になり、ハート氏の不倫現場をスクープした本人が直接、その疑問に答えている。マイアミ・ヘラルド紙で最高編集責任者の編集主幹まで務め、その後米ボストン大学コミュニケーション学部長に就任したトム・フィードラー氏だ。

同氏は「ゲーリー・ハートの女性スキャンダルで政治は本当にダメになったのか?」と題した記事を書き、米政治ニュースサイト「ポリティコ」へ寄稿した。

●“Did the Gary Hart Scandal Really Ruin Politics? By Tom Fiedler, October 02, 2014

同記事では「選挙戦で候補者が有権者の信頼を失う決定打は不倫ではない。偽善である」と結論している。政治ジャーナリズムのタブロイド化を嘆いて『真実はこれだ』を書いたバイ氏に反論した格好だ。

候補者の人格を伏せて報じたら「不作為の罪」

まずマイアミ・ヘラルド紙がどのようにハート氏の不倫現場をスクープしたのかおさらいしておこう。

1987年4月、大統領選に出馬表明した民主党のハート氏は大きくリードし、そのまま独走するとみられていた。「女たらし」との疑惑が浮上しても「事実無根」と一蹴。米ニューヨーク・タイムズ紙に対しては「疑うなら私を追い掛けまわすといい。気にしないから。尾行したいならどうぞお好きに。きっと退屈するでしょうけれどね」と自信たっぷりにコメントしていた。

そんななか、マイアミ・ヘラルド紙にタレこみがあった。ハート氏は妻ではない女性と関係を持っており、今度の週末にワシントンで密会する――。

フィードラー氏は同僚とともにすぐさまワシントンへ飛び、ハート氏の住居周辺で張り込みを開始。当時29歳のモデルと一緒の場面を確認し、路地裏でハート氏に突撃取材。1面トップ記事は大反響だった。

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