第3ゲーム終盤に3連続失点を喫して16―19。剣が峰に立たされ、高橋も松友も一瞬、「ここで負けちゃうのかな」と観念しかけた。ただ、このまま押し切られて終わっては世界ランキング1位の名折れ。最後は「1回でもいいから相手に『おっ』といわせたいと思った」(松友)。
ここから怒濤(どとう)の反撃が始まる。身長183センチのリターユヒル、178センチのペデルセンの強打の集中砲火をことごとく返し、ドロップショットやクロスを決める。2点を返すと、強烈な一発のない松友が左から右へ動きながら執念の強打連発。同点に追い付いた。
2人が極限まで集中を高めて放ったリターンの正確さは驚異的で、最後は相手がシャトルをネットに引っかけるミス。一矢報いるどころか劇画のような5連続得点で大逆転を果たし、バドミントンで日本初の五輪金メダリストが誕生した。
過去の対戦成績は7勝4敗で5連勝中。不安要素は少なかったはずが、硬さからミスが多く出て第1ゲームを落とした。それでも「相手を走らせて穴をつくれば、崩れるのは分かっていた」と松友。シャトルを高低に打ち分けたり、打球に緩急をつけたりして相手を走らせ、主導権を奪い返していった。
宮城・聖ウルスラ学院英智高で高橋が2年生、松友が1年生の時にペアを結成した。相手の予測を超えたトリッキーな動きやショットが持ち味の松友が前衛で、守備範囲の広さとパワーを誇る高橋が後衛。高校生ながら全日本総合選手権で大学生や日本代表のペアを破るなどし、早くから将来を嘱望されてきた。
2014年10月に全種目を通じて日本初の世界ランク1位に立ち、12月にはスーパーシリーズ・ファイナルで日本勢初優勝を遂げた。だが、15年になると「世界1位」の看板を重荷に感じるようになる。2人ともけがをしたこともあり、結果が出なくなった。
トップであるからには「勝たなければ」という過度な義務感で自分たちを縛ったことが主な原因だった。「そうではなく、やってきたことをどれだけ試合で出せるかが大事だと気づいた」と松友。高橋は「負けないと分からなかったこともたくさんある」と振り返る。
飛躍への踏み台となる不振期が五輪の前年だったことが大きい。今年に入ると全英オープンを制するなど復調し、今大会では「世界ランク1位のプレッシャーは全くなかった」(松友)。
高橋はそもそも「本当に1位の実力はない」と語る。ただし「コンビネーションは世界一だと思っている」。結成から今年で10年目。そんじょそこらのペアにはまねのできない熟達の連係で、名実ともに「黄金ペア」の称号を手に入れた。(合六謙二)