ちょっとよくわからなかったので。
「NHKが貧困の実態についての報道をして、その中で出てきた女子高生が、実際には貧困生活とはとても思えない生活についてのツイートをしていた」
その為、NHKの報道は「やらせ」ないし「ねつ造だ」、という話のようです。まとめサイト界隈でがーーっと吹き上がっており、Twitterにもそれが波及しております。まとめサイトにアクセスがいくのもなんなのでリンクは貼りませんが。
ちょっと追っかけてみたところ、元の報道はこれのようです。
NHK NEWS:子どもの貧困 学生たちみずからが現状訴える
当たり前のことですが、NHKの報道が「ねつ造」だというなら、この中に嘘、存在しない話が含まれていなくてはいけません。
この、今まとめサイトなどで対象として挙げられている女子高生についての記述を参照してみると、
希望する専門学校への進学を諦めた高校3年生のうららさんは「みんなが当たり前に持っているものが自分の家にはない。みんなが普通にできることが、自分の家ではとても困難。自分は貧困なのかもしれないと思った」と話しました。うららさんは、小学5年生のときに両親が離婚し、現在は一緒に暮らす母親が働きながら家計を支えていますが、経済的に厳しい状況です。自宅のアパートには冷房はなく、夏の時期はタオルに包んだ保冷剤を首に巻き、暑さをしのぐ毎日です。自分の家が経済的に厳しいことについて実感させられたのは、中学時代の授業だったといいます。パソコンを持っていなかったうららさんは、授業で先生に「ダブルクリックして」とか「画面をスクロールさせて」などと言われても、ついていくことができませんでした。母親からは千円ほどのキーボードだけを買ってもらい、一生懸命練習したことは忘れることができない出来事でした。進路を選ぶ3年生の夏を迎えたうららさん。絵が好きで、アニメのキャラクターデザインの仕事に就きたいと、専門学校への進学を希望していましたが、入学金の50万円を工面することが難しく、進学は諦めました。
この辺りの記述がそれに該当しそうです。
それに対して、まとめサイトなどを参照していると、
・部屋に豊富な画材や調度などがある
・2万円程度の高価なイラスト画材を保有している
・1000円以上のランチを頻繁に食べている
・7,800円のEXILEなどの舞台鑑賞(S席) をしている
・ワンピースグッズなどについての散財について記載している
といったことが、「ねつ造報道である」ということの根拠とされている、ように見受けられます。
うん。よくわからん。
少なくとも、ここまでで提示している情報からでは、私には「NHKの報道はねつ造である」という判断をすることが出来ません。
皆さんよくご存知の通り、貧困には「絶対的貧困」と「相対的貧困」の二種類があります。絶対的貧困とは、「必要最低限の生活水準を維持するための食糧・生活必需品を購入できる所得・消費水準に達していない」こと。
一方、OECDが定義している「相対的貧困率」は、「等価可処分所得の中央値の半分の金額未満の所得しかない人口が全人口に占める比率」のことを指しています。
で、これもみなさんよくご存知だと思うんですが、相対的貧困の家庭が、「目先の散財」をしてしまうことは全く珍しいことではありません。むしろ、収入的に長期的な展望が持てないからこそ、目先の短期的な散財をしてしまい、それが余計相対的な貧困の度合に拍車をかけてしまう、というのは実によくある話です。
そこから考えると、今出てきている情報だけで、「この女子高生は貧困じゃない!!」→「ねつ造だ!!」という論理展開は、ちょっと私には意味が分からないです。
いや、分かんないですよ。実際に、この女子高生の方は上記の「相対的貧困」に当てはまっておらず、定義的な意味でも「貧困」とは言えないのかもしれません。上で紹介されているような、「夏の時期はタオルに包んだ保冷剤を首に巻き」というような記載が偽りなのかもしれません。その場合はNHK報道を「ねつ造」と呼ぶことに問題はありませんし、実際にこの後そういう事実が判明するかもしれませんし、そういう謝罪が出るかもしれません。その可能性を否定はしないです。(率直にいって、エピソードなどについて若干おおげさに報道している可能性は割と高い、とは思っています。それをねつ造と呼ぶかは別問題ですが)
ただ、それと、現時点でNHKをねつ造呼ばわりして、女子高生をたたくのが適当なのかどうか、というのは全く別の問題です。
私が言いたいことは、
・今出ている表面上の情報だけで「こんなの貧困じゃない!」「NHKねつ造!!!」とかって騒ぐのはなんか違うんじゃねえ?
ということです。
上記の「相対的貧困」の定義がある以上、「こんな色々買ってるヤツを貧困とはいわねえ!!」と騒ぐことには、1ミリグラムの意味もありません。ある貧困な人が、他の貧困な人の足を引っ張ることほど非生産的なこともありません。絶対的貧困以外を貧困と認めないのであれば、それこそ貧困に対する対処なんてできないですよ。4畳半で、調度もなにもないような家庭しか貧困と認めないんですか?って話です。
そして、「ねつ造をしているメジャー放送局」という藁人形が怒りの対象としてあまりに魅力的であるが故にこそ、ちょっとの情報だけでがーーっとみんな盛り上がってしまう。ちょうどいい「怒りの対象」に石をぶつけまくってしまう。まさに、私が何回か書いている、「分かりやすい悪役」案件です。
私が言いたいのは、単にみなさんちょっと落ち着きませんか?っていう、それだけです。脊髄反社でがーーっと吹き上がっていたら、喜ぶのはまとめサイトばっかりですよ。
取り急ぎ、今日書きたいことはそれくらいです。