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 東北地方の重度障害者施設に勤める40代の男性の腕にはいくつも傷がある。右前腕部が多く、取材した日は赤い傷が五カ所ほど。暴れる利用者が爪を立てたり、たたいたりした痕だ。かみつかれて血が出たこともある。

 「反応すればさらに興奮するから、平然と対応するように教わった。押さえつけるわけにはいかず、他の利用者にけがをさせてもいけない。職員がけがをしてでも盾になるしかない」

 約50人の利用者が暮らす入所施設で働く。担当するのは約20人いる最重度の人たち。利用者が暴れるのは毎日のことだ。

 福祉を志して、今の施設に勤め始めて1年近く。理想を持ってはいるが、24時間を超える宿直が明けるとぐったりする。疲労でケアが乱雑になる日もある。

 「保護者の疲れきった表情、施設で働いている職員の生気の欠けた瞳」

 津久井やまゆり園で起きた事件で逮捕された植松聖(さとし)容疑者(26)は、衆院議長に宛てた手紙にそう書いた。その内容は、理解できる面もあるという。

 利用者にとって本当は自宅に居るのが一番落ち着くだろうと思う。だが家族の負担は大きい。確かに疲れ切った家族はいる。身寄りのない人や、家族がほとんど会いに来ない人もいる。

 「生気の欠けた瞳」という言葉には、とっさにある同僚を思い浮かべた。トラブルが続いて疲れ切った日は、自分だってそんな目をしているかもしれない。

 植松容疑者は、福祉の仕事に前向きな言葉を述べたこともあったとされる。

 「きれいな言葉とそうでない面と、この仕事をしていれば、ひとりの中で同居することはあるんじゃないでしょうか」

 現場には、給料や労働条件から…

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