澤田石順(医師、鶴巻温泉病院 回復期リハビリテーション病棟専従医) 

 米国の心理学者、シルヴァーノ・アリエティはこんなことを言っている。

独創的とは無から有を生ずるようなものではない

従来無関係だと思われたことに、新しい関係性を発見すること

 私はヒトパピローマウイルスワクチン(以下、HPVワクチン)を子宮頸がんワクチンと呼ぶことを認めることができない。このワクチンは子宮頸がんそのものを予防する効果がまだ証明されておらず、実際に子宮頸がんの発病率ないし死亡率の変化など、最終的な効果判定がなされるまでは少なくともあと十余年は待たねばならない。

 私はワクチンや脳神経・免疫・内分泌系疾患等の専門資格を有さない病院勤務医ではあるが、2010年からNPO法人「筋痛性脳脊髄炎の会」の元理事として慢性疲労症候群/筋痛性脳脊髄炎(以下、CFS/ME)という難病患者の支援活動を行っている。CFS/MEは厚労省が定める難病のリストにないため、研究は進んでないし、医療費の助成や生活支援も無い。医師からも「心因反応」とか「詐病」だとみなされることが多い難病だ。

 2011年にHPVワクチン接種後に日常生活が困難となった女子中高生のことを知り、HPVワクチン接種後の症状とCFS/MEの症状との共通性、そして患者達の社会状況の類似性に驚いた。

 私はHPVワクチンについては慎重の立場だ。被害者を診療してないので、形式的には当事者ではないが、全国子宮頸がんワクチン被害者連絡会とは昨年から連絡を取り合っている。私が今日までかかわってきた経験を基礎として、HPVワクチン問題の創造的な解決に役立つ“種”となるような言説を展開したい。

会見で全身の痛みや記憶障害などの深刻な症状を涙で話す被害者の谷口結衣さん
(中央)=3月30日、東京都港区(早坂洋祐撮影)
会見で全身の痛みや記憶障害などの深刻な症状を涙で話す被害者の谷口結衣さん (中央)=3月30日、東京都港区(早坂洋祐撮影)
「HPVワクチン接種後症候群」の症状

 「HPVワクチン接種後症候群」という呼称は私が独自に使用している。症候群とは症状と医師の診察による徴候の組み合わせとの意味である。これらは以下のような多彩な症状の組み合わせで特徴づけられる。

1. 運動系障害: 姿勢保持・起立・歩行障害、不随意運動、痙攣、筋力低下、運動後の疲労回復の遅延
2. 感覚系障害: 頭痛、四肢・関節などの疼痛、光・音・嗅覚過敏、激しい生理痛
3. 自律神経・内分泌系障害: 過敏性腸症候群、体温調節障害、発汗異常、睡眠障害、生理不順、ナルコレプシー、起座位での低血圧や頻脈
4. 認知・情動系障害:無気力、だるさ、幻視、幻聴、妄想、暴言、記憶障害、学習障害、集中力低下、肉親の顔をみても認知できない

 テレビの映像でよく取り上げられる手足が勝手に動くという不随意運動・痙攣は症状の一つに過ぎなく、どの患者にも必ず出現するのではないことは強調されねばならない(ワクチンによる被害を軽視する一部の医師は、不随意運動・痙攣だけを取り上げて、昔からそんな症状を呈する未成年はしばしばいると見当違いのことを言っている)。

 上記の諸症状の多くが、接種後すぐに一度に現れるのではなく、長い経過の間に出現したり消えたりする。慢性的な極度の疲労や歩行障害が出現したら、通学不能となる。痛みや脱力を我慢して通学はしても、学習が困難なケースが少なくない。読者にはこのような多彩な症状が自らにふりかかったら、生活がどうなるかを想像して欲しいと願う。車いす生活を余儀なくされている女子中高生が何人も存在する事実の重みを考えていただきたい。

 患者を実際に診療した医師達は最初の患者をみて、このような症状の組み合わせは「みたことがない」と驚き、似たような症状の患者が幾人も外来に来て、HPVワクチン接種が共通項であることに気づいた。患者を何人も診療した医師達は互いに連絡を取り合い、共同で研究し、診断基準を作成したが、未だにそれは仮説段階である。