敵の核攻撃がない限り、核兵器を先に使わない。それが「核の先制不使用」だ。

 オバマ米大統領が検討しているとされるこの政策について、安倍首相がハリス米太平洋軍司令官に反対姿勢を示したと米紙ワシントン・ポストが報じた。

 同紙によると首相は、北朝鮮に対する抑止力が弱まり、紛争の危険が高まるという趣旨の懸念を伝えたという。

 報道に対し日本政府の公式な説明はなく、首相が本当にこうした発言をしたのかは不明だ。ただ日本政府はこれまで、先制不使用は「核の傘」の抑止力を損なうもので賛同しがたいとの立場をとってきた。

 今回も外務省幹部は朝日新聞の取材に、「もし米政権が核の先制不使用を宣言すれば、日本を守る米国の拡大抑止は成立しなくなる。あり得ない話だ」と述べている。

 被爆国・日本として、あまりにも後ろ向きな姿勢と言わざるをえない。

 核戦争には、勝者も敗者もない。核抑止論に立つ限り、核戦争の危険はなくせない。核の拡散を防ぐためにも、世界有数の核保有国が核の役割を減らす姿勢を示すことは意義がある。

 安保環境を厳しく見る必要はあるが、米軍の通常戦力だけでも北朝鮮などへの抑止は機能しているという見方も有力だ。

 「核兵器のない世界を追求する勇気を」。3カ月前、広島でそう呼びかけたオバマ氏に同行した安倍首相は、むしろ積極的にオバマ氏に協力し、先制不使用を後押しすべきだ。

 ワシントン・ポストによれば日本と同様、米国の「核の傘」に入る韓国のほか、核保有国の英国やフランスも政策転換に反対しているという。

 一方で、川口順子元外相や豪州のエバンズ元外相らアジア太平洋地域の元閣僚らは最近、オバマ政権に先制不使用を求め、日本を含む米国の同盟国に支持を促す声明を出した。

 核の惨禍を身をもって知る日本が、非核への歩を進めようという世界の潮流を阻むことがあってはならない。

 「核の傘」に頼らぬ安全保障をめざし、その意志と目標を掲げ、米国と協議を進めることこそ日本外交にはふさわしい。

 それが結果として日本の道義的な立場を高め、地域の安定と平和にも資するはずだ。

 首相は広島で、核兵器のない世界に向けて「絶え間なく努力を積み重ねていく」と誓った。

 そのために何をするのか、具体的なビジョンと行動が問われている。