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介護保険の福祉用具レンタル 全額自己負担方針に悲鳴

(2016年8月4日) 【中日新聞】【朝刊】【その他】 この記事を印刷する

介護保険の費用抑制のため、政府内で検討が進む要介護度が軽い人へのサービス見直しのうち、特に身近な福祉用具レンタルの全額自己負担化方針に、対象の高齢者から悲鳴が上がっている。当事者らには「用具を使って行動できるからこそ、元気でいられる」「生活を壊さないで」との思いが共通しており、「政府方針は逆に重度者を増やす」と主張する。 (白鳥龍也)

「年金暮らしで、福祉用具の全額負担はあまりに厳しい。私のような人を家に閉じ込めないで」。兵庫県西宮市の女性(76)は、語気強く訴える。

 変形性股関節症が悪化し、二〇〇八年に左足を切断して以来、車いすの生活。ただ「気ままに暮らしたい」と、長男夫婦宅の近くで独居し、大半の家事をこなすほか、友人との観劇や茶会に積極的に出掛け、要支援2を維持している。「用具がなければ全部ができなくなり、認知症になりかねない」と不安がる。

 ヘルニア手術の後遺症で、五十年前に下半身まひになった盛岡市の吉田義夫さん(85)は、車いすや段差解消用のリフトを器用に扱い、一人で散歩や買い物に行くのが楽しみ。四年前に腸の手術をした後は要介護5だったが、現在は2。ケアマネジャーの資格を持つ長女幸子さん(52)は「月約五千五百円の用具レンタル代が十倍になったら、負担はとても無理。といって用具がなければ、私が仕事を辞めて面倒を見なければならなくなる」と頭を抱える。

車いす用のリフトを器用に扱い、庭に出る吉田義夫さん=盛岡市で

介護保険を利用してレンタルできるのは、トイレやベッドに設置できる手すり、歩行器、車いす、電動ベッドなど十一種。一割負担の場合、車いすだと一般には月に数百円で借りられ、利用者にとっては在宅で自立生活を続けるのに大きな手助けとなっている。
 厚生労働省の統計によると、一六年二月に介護保険で福祉用具をレンタルしたのは百八十四万人。うち政府側が要介護度が軽いとみなす要支援1、2と要介護1、2の人(軽度者)は百十四万人で六割を占める。一方、それらの人への福祉用具貸与のための給付費は九十五億円で、介護保険全体からみれば1・4%にすぎない。

レンタル事業者らでつくる日本福祉用具供給協会が昨年、日常的に用具を利用する約五百人に「用具が利用できなくなったらどうするか」を尋ねたところ「介助者を依頼する」「行動をあきらめる」との回答が多数を占めた。協会の小野木孝二理事長は「用具が使えなくなると、家族の介護負担が増すか本人の行動が抑制され心身状態が悪化する恐れがある。そうなると訪問介護の費用も人材も余計に必要になる。福祉用具貸与は費用対効果が大きいサービスだ」と強調する。
 日本ケアマネジメント学会の服部万里子副理事長は「軽度者のサービス切り捨ては、頑張って生きてきた高齢者の人生を今後はお金で買えということ。できない人は人生そのものを変えられてしまう。介護保険制度の信頼が根本から崩れる」と指摘している。
 <軽度者のサービス見直し> 2015年6月閣議決定の「骨太の方針」に明記され、政府側は17年に法改正、18年4月から介護保険制度および介護報酬改定に合わせ実施-を目指す。財務省は、福祉用具貸与のほか訪問介護の生活援助、バリアフリー化の住宅改修を介護保険の給付から外して原則自己負担にすることを提唱。厚労省社会保障審議会介護保険部会で年内の結論を目指し、詰めの論議を進めている。

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