印南敦史 - アイデア発想術,スタディ,プレゼン,仕事術,働き方,書評 06:30 AM
すべての問いに30秒以内に答えるべし。マッキンゼーの現場で練り込まれた「47原則」とは?
さまざまな物事を鮮やかに記憶でき、一度聞いたことだけのことも忘れない。しかも、あらゆるものをスポンジのように吸収する能力を持っているーー世の中には、そんな才能に恵まれた人がいるものです。
しかし、『47原則―――世界で一番仕事ができる人たちはどこで差をつけているのか?』(服部周作著、ダイヤモンド社)の著者は、本人の言葉によれば、そういう人とは対極の位置にいるのだとか。なんでもメモしておかなければ、すぐに忘れてしまうというのです。
そこで実践しているのが、ただ書きためるだけではなく、おぼえやすいように工夫した図表をつけて記憶するという方法。しかも2冊の手帳を使い分け、1冊は走り書きのメモ用に、もう1冊はそれを整理した学習手帳としているのだそうです。ちなみに後者のことは、「ルールブック」と呼んでいるといいます。
本書は、このルールブックに書き溜め私自身が実践して成果が上がったと実感した仕事の進め方や、尊敬する社内外のリーダーがさりげなくこなしている効果的な手法を聞き出して、「47原則」にまとめたものです。(「はじめに」より)
著者はマッキンゼー・アンド・カンパニーで、アジア、北米、ヨーロッパなど7カ国でさまざまなプロジェクトに従事してきた人物。そんなこともあってか、「47原則」もまずは2015年にアメリカで『THE McKINSEY EDGE』として出版したうえで、今回、日本版を出すことになったのだそうです。第1章「先手を打つ」から、いくつかの原則を引き出してみましょう。
きつい仕事は午前中に片づける
「早起きは三文の徳」は、昔から広く実証されてきた真理。では具体的に、早朝の時間帯にはどんな仕事をすべきなのでしょうか? この問いに対する著者の答えは、ずばり「難しいこと」。なお、「やることリスト」のなかでの"難しいこと"とは次のようなものだそうです。
・一番やりたくない仕事
・結果が出るまで時間がかかり、簡単に達成できない仕事
・しっかり手応えが感じられるように、午後じっくり3〜4時間かけてやりたい仕事
・細心の注意を払うべき仕事
・辛くて苦しい仕事
・取り組み方があまりわかっていない仕事。おそらく周囲の助けがいり、着手してからじっくり考える必要があるもの
・早めに始めて一部を他の人に振らないと、後になって全部自分でやる羽目になる仕事
(4ページより)
平たくいえば、単なる作業ではなく、「考える」ことが必要な仕事が朝に向いているということのようです。では逆に、早朝にしなくてもよい仕事はどのようなものでしょうか? それは、なにかを変更したり修正したり削除する以外の仕事だといいます。こうした受動的で、あまり頭を使わない仕事は、頭が冴えている早朝よりも、夜の時間帯に向いているとか。
・なにかを編集する
・書類を校正する
・プレゼン資料に補助的な文章やスライドを追加する
・メールや依頼に返信する
・プロジェクトメンバー全員のメールの連絡先リストをつくるなどの単純作業
(6ページより)
そして年齢的に若ければ若いほど、早起きして仕事をこなすことにより一目置かれる可能性が高くなると著者はいいます。誰もが昔は若かったので、若い人にとって早起きがいかに難しいことであるかを上の世代は理解しているから。
また科学的に見ても、早起きして難しい仕事をこなすことは筋が通っているといいます。体温は、昼間は上下0.5度程度の変動があり、午後6時半〜7時ごろには低下しはじめ、底を打つのは午後4時半ごろ。そしてふたたび上昇をはじめ、「起きる時間だ!」と知らせるというのです。頭の働きは身体とは逆で、低温のほうが冴えるため、朝早い時間に難しい仕事をするというのは理にかなっているわけです。(4ページより)
すべての問いに30秒以内で答える
経営幹部クラスの人たちに"一瞬で"好印象を与える方法は、過不足ない内容で"短く"回答すること。そう断言する著者も、「すべての問いに30秒で答える」ことを自分に課しているのだそうです。そのため重要なのは、「内容の濃い多くの情報を、ごく短時間で伝えようとするのは非現実的だと肝に銘じ、いくつかのルールを学ぶこと」。そこで著者は、「多くの情報を手短に伝える3つのルール」を紹介しています。
第1のルールは、「再クリック」理論を理解すること。電子商取引サイトで商品に関するコメントや推薦文を読んだり、ベストセラー本のごく短い要約を読んだところで、全容を知ることはできません。だからこそ、さらなる情報を求めてリンクを再びクリックするわけです。つまり、この心理を利用することが大切だという考え方。30秒の回答ですべてを伝えようとせず、相手が興味を示すトピックに、注意を呼び起こすきっかけを与えることが大切だということです。
第2のルールは、主たる質問を分解する習慣を身につけること。たとえば経営幹部から「プロジェクトはどんなふうに進んでいますか?」と聞かれたとしたら、進捗について漫然と答えるのではなく、相手の立場に立って相手が知りたいことはなんなのかを考えることが大切。その場合、以下の具体的な質問に沿った内容になるといいます。
1. プロジェクトは全体的にどんな状況か、いいか悪いか?
2. 1で回答した状況を示す2~3の事例はなにか?
3. 問題について自分はどう対処するつもりか?
4. 相手の重役はどんな点で力になれるか?
(12ページより)
具体的な質問を考えるためにいちばんよい方法は、台数の等式に当てはめてみることだといいます。主たる質問(A)に対して意味のある回答をするためには、A=x+y+zのような等式で「基本変数(x、y、z)になにを用いればよいか?」というふうに考えるということ。一般的な指針として、「利害関係者、プロセス、スケジュール」をなんらかの形で用いると、相手の質問を分解して具体的に回答するのに役立つそうです。
第3のルールは、自分の回答について常にダーツのように考えること。ダーツボードのいちばん内側の円"ブルズアイ"を狙うのではなく、初めはいちばん外側のリングから狙うべきだというのです。それは、最初から的外れな質問をして相手を失望させる危険を避けるため。とはいえ相手が関心のない話からはじめるということではなく、相手の興味を引くヒントを盛り込みつつ、いちばん外側のリングから素早くブルズアイに焦点を移すわけです。(10ページより)
なお、30秒で回答する訓練をすべき理由は次のとおりだそうです。
1. 相手の望むことを敏感に察知する能力が発達する
2. 情報を整理するスキルが訓練できる
3. 発表者としての腕が上がる
4. 無意識のうちにCEOレベルにまで頭が鍛えられる
(14ページより)
アウトプットをイメージする
ビジネスのプレゼンテーションにおいては、早くから結末を織り込んだプロジェクトの全貌を提示することが必要なのだと著者は主張します。映画を観ているとき、途中の場面をいくつとばそうが結末を知りたいと思うのと同じで、聞き手は「結果がどうなるのか」を知りたいと思うものだから。人は待たされると苛立つものなので、いつでもアウトプットのイメージをつくれるようになることが大切だというのです。
マッキンゼーではこのアウトプットのイメージを「ダミーチャート」と呼び、プレゼン資料全体を「ゴーストデッキ」と呼んでいたそうです。完成させたい再集計がわかっているこの言葉を、コンサルタント全員が共有しているというのです。
そしてアウトプットのイメージが不明瞭だと、コンサルタントはすぐに問題提起するのだとか。逆に若手コンサルタントは、アウトプットのイメージをシニア・リーダーに検証してもらい、根拠薄弱なものにならないように確認。こうすることで、多くの無駄や、実は必要性のない仕事が省かれるというのです。
自分の目標を熟知していると、よりよく、より早く、より果敢に仕事を進めることができるもの。そして一般的に、「会社のビジョン」を説明する際に効果的なのがトップダウン・コミュニケーションという手法。トップダウンとは、まずいいたいことの全容をその名のとおり「上から」明かすこと。レゴで例えるなら、徐々にパーツを組み立てていくのではなく、最初から組み上がった物体を見せてしまうということです。
そのために必要なのは、前もってアウトプットである「答え」を準備しておくこと。話すトピックがAからBへ、さらにCへとだらだら話し続けると要点がぼやけてしまいますが、あらかじめ「共有化したいことが3点あります。それはA、B、Cです」といえば明瞭になるというわけです。(14ページより)
著者が実践し、効果を実感してきたものであるだけに、どの原則も実用的。だからこそ本書の内容を把握し、自身のビジネスに取り入れてみれば、相応の効果が得られるはずです。
(印南敦史)
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