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2016.08.15 13:00
 

「人工知能(AI)に負けない子供への教育」の議論に意味はあるか|やまもといちろうコラム(前編) (1/2ページ)

     

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※世界遺産かなんかになった上野の西洋美術博物館にあるロダンの「地獄の門」を畏敬の念で見上げる拙宅三兄弟

山本一郎です。育児に自信はありません。

面倒くささの根底は、人間が人間であること

ということで、冒頭から駄目な話をするようなんですが、私自身はインターネットでのメディア関連やICT系の技術、資金調達や、コンテンツ系の製作委員会を組成するという仕事をしています。別に仕事しなくてもほどほどに食べていけるぐらいの資産はあるものの、仕事をしないと自分自身が錆びていく感覚があるもので、どうしてもまじめに仕事をしてしまいます。

その自分の仕事をtodoリスト作って管理したり、進捗を見ながら採算管理をしたり、寄せられる企画や投資依頼書などを処理したり、慌しくやっているのを見返すことがあるのですが、ふと「面倒くせえな」と思うわけなんです。

フリーランスでやられている方も、管理業務を担当されている方もあるかもしれませんけど、この世の中にある生産的でクリエイティブな仕事なんて、本当のコアのコア、楽しくて寝食も忘れるような”仕事”って1%ぐらいです。1%は言い過ぎですかね。じゃあもう少し正確に書くと、まあ0.5%ぐらいでしょうか。なんつーか、ほんのわずか。微量。そういう感じです。

残りの99.5%は、ぶっちゃけ雑用です。タスク。何というか、毎週毎日「やることリスト」作って上から処理していく感じの。面倒くせえ。ほんと面倒くせえよ。やってもやっても終わらない。っていうか、タスクをこなしているうちに「あ、これもやんなくちゃ」「そういえば、あれどうなったっけ」と思い始めると、どんどん湧いて出てくる類の。うわー、だりー。

なので、儲かっているうちは面倒くさい雑用は人を雇って全部お願いしようとするわけです。請求書出しておいて、法務省行っておいて、これ訳しておいて、会議まとめて議事録つけといて。わあー、楽。手間が省けて最高ですね。いいね二万個。これで考える仕事に集中できる。

と思うと、今度は雇っている人の管理業務とか、人が増えると組織になって経営管理とかしなくちゃならないわけですよ。死ぬ。超面倒くさい。何で君たちは勝手に持ち場を離れて別の仕事してますか。勝手に不倫とかしてるし。なんで社内で修羅場を作るんですかね。面倒くせえよ。うざいわー。部下の別れた奥さんとかから泣きながら電話かかってきてうっかり「はい山本です」とか出ちゃった日には、マジで時間潰れるわー。まあ人生の一大事だし、親身になって聞きはするけど、二年か三年仕事で使った部下の人間性や家庭環境なんてそんな詳しく知るわけないです。いくら上司でもね、部下の人生に踏み込んでいいことと悪いことってあるんだよ。

というわけで、そういう面倒くさいタスクに囲まれて生きる私たちは、人生の大半を雑用に塗れて暮らしています。例外なし。生産的な仕事だと思って始めたコンテンツ系の投資事業も、「この作品があたるかどうか吟味する」なんて真っ当なクリエイティブ性など無用で、話の9割9分9厘は他スポンサーとの折衝だったり、どのポジションの誰とどのタイミングで挨拶回りするかの調整だったり、突然占い師みたいな人間に洗脳された女性タレントが仕事をキャンセルしてきた後釜探しに芸能事務所を奔走したり、この脚本家が気に入らないと難癖をつけてきた監督が自分の愛人を社長にした制作会社をねじ込んでくるのをうまい具合に回避したりといった、泥臭い作業の連続なのであります。

この面倒くささの根底にあるのは、人間が人間であるからです。人間であることを極力排除しようとすると、ルールが生まれる。ルールに従順にするためにはマニュアルができて、それをこなせばどんな人でも一定のクオリティの仕事が実現できるはずだ、という業務設計になっていきます。仕事は最初は楽しくても、だんだんルーチンが増える、とたんに作業になり、イレギュラーな事態はすべてトラブル含みであって、炎上沙汰になって初めて消防車乗り付けて鎮火させ、菓子折りもって有力者にお詫びに上がるのです。

そんなの仕事じゃねえ。人生、もっと楽しく働きたいんだ。

どういう教育をすれば人工知能に勝てるのか

そういう雑務から人間を解放する究極のテクノロジー、それは人工知能です。自動車を運転してくれます、コンシェルジュ機能がロボットについて身の回りの世話をしてくれます。最高じゃないですか。そういうハイテクな連中にお世話してもらえれば、もっともっとやりたい仕事を、最高の作品を、抜群のクオリティを発揮できるに違いないのです。なんといっても人工知能は社内や取引先と不倫をしません。同業他社から引き抜きが来ることもなければ、トンネル会社を作って横領を目論んだりもしないはずです。いいないいな人工知能。早く来ないかな人工知能の世界。

でもですよ。定型のマニュアルにそって時間を使えばできる雑用のような作業は確かに面倒くさいけれども、仕事の最小単位もまた雑用です。どこか会社に潜り込んで、仕事の仕方を学んで一人前になっていく過程にあるのは、若いからこそ「これやっといて」と言われてこなした作業の山です。作業の山の向こうに、仕事の進め方が見えてくる。仕事の進め方が分かるからこそ、部下に作業レベルまで指示内容をブレイクダウンし、誰でもできるような雑用に分割することがマネジメントだと言われるわけですよ。

そして、ハタと気づきます。いまいる拙宅山本家の子供達。この子が大きくなるころには、人工知能の世界になってて人間のやる仕事の内容も一変してしまっているんじゃないの。

確かに、昨今では人工知能に仕事が奪われる、という話がかなり盛んに喧伝されるようになりました。以前は人工知能の代わりに難民など外国人労働者が国民の仕事を取ってしまうとか、グローバリゼーションが進んで経済が国際化していくと、低賃金の労働者を多数抱える途上国に日本の仕事が奪われて国内の産業が空洞化するぞという議論があったのは記憶に新しいところです。が、今回はそこからさらに、人ですらない人工知能に仕事が奪われる、となると、子供たちにどういう教育をすれば人工知能に勝てるのかとかいう、私の43年の人生で直面したことのないような競争が待ち受けておるわけです。

ヤバイ。なんかヤバい気がしてきた。人工知能みたいに、特定のタスクだけこなすわけではないそれなりに気の利いた代物が、おそらく私の子供たちが社会に出るころには出揃っていて、奴らは老けないし文句も言わないわけですよ。そうなると、ちょっとやそっとの根性でありきたりな知識を学校で習いました程度の人材は、人工知能で動くロボット以下の働きしかできない社会がやってくることになります。

 
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