読んだ本

・ジョン・ファンテ「バンディーニ家よ、春を待て」
また新刊が出るなんて密かにジョン・ファンテブームでも起きてるのか?本作はファンテの初の長編作品。いままで読んだファンテの作品のなかで一番おもしろかった。イタリア移民の一家の物語なんだけど実際に当時の空気を感じられるような気がする。ユーモア感覚も相変わらず。というかこの、自分で勝手に浮かれて自分で勝手に失望してるこのユーモア感覚はエマニュエル・ボーヴに似てる気もした。いい作品だ。




・サルマン・ラシュディ「悪魔の詩」
色々といわくつきの本。読むのしんどい文体だったけど、おもしろかった。イスラム教を知ってるわけでもない自分には宗教的な隠喩やパロディ等はわからないので十分に理解はできなかったと思うし、死刑宣告されるほどのもんなのかねと思ったりもしたが、単純に本としておもしろかった。たとえば突飛なコメディとして読んでもすごくおもしろいんじゃないかな。最後の方は真面目だけど。
まあ明らかに凄い作家だってのはわかるし、存命の読む価値のある作家ってのはおれにとってかなり貴重なんだけど、この人の本を翻訳したがる人や出版社はまずいないんだろうなーというのが残念だ。




・サルマン・ラシュディ「恥」
「真夜中の子供たち」の次に出た作品。この人の本読むの3冊目だけど、一番読みやすくてポップな作品だった。寓話的で喜劇的で情念的な狂騒劇。マジックリアリズムの作家と言われる所以がよくわかる。素晴らしい作品。




・サルマン・ルシュディ「ムーア人の最後のため息」
「恥」と同じく先祖代々に渡る壮絶な狂気と幻想の物語。おもしれー、これまた傑作だと思ったけど、話が現代まで辿り着いた途端あんまおもしろくなくなった。やはりマジックリアリズムというのは、その土地や民族の血に流れる土着的な神話性や寓話性に惹き込まれるのであって、普通の現代の話になるとありきたりに見えてしまうものなのだろうか?バルガス=リョサの現代の小説もあんまおもしろくなかったよな。まあただの個人的な嗜好の問題なのかもしれないけど。


・ドノソ「ロリア侯爵夫人の失踪」
ドノソの新訳。別荘の後に書かれた作品らしい。性に目覚めた未亡人の官能の物語というか、セックス依存症の貪欲なビッチライフとでもいうか。まあよくある主題の特に目新しい物もない作品。解説読むとドノソ自身もそれは自覚していて、息抜きみたいな感覚で書かれたもののようだ。


・クヌート・ハムスン「ヴィクトリア」
いまじゃ顧みられることも少ないクヌート・ハムスンの作品。クヌート・ハムスンといったらなんといっても名作「飢え」、貧乏な若者が町をうろつきながらどいつもこいつもくたばっちまえって吐き捨ててるようなあの作品がおれは大好きなんだけど、今作は純愛小説。身分の違う二人、互いを遠ざけようと傷つけあい、愛しあう二人…うーん、なんだろうこの、これじゃない感。おれはやっぱ飢えみたいのが読みたいんだよ。いいかげん飢えを復刊してくれないかね?




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