FANGとはフェイスブック、アマゾン、ネットフリックス、グーグルの四社を指す造語です。これにアップルを加えた大手が、こんにちのIT市場に君臨しています。

スマホ、SNS、クラウドなどが、われわれの暮らしを便利にし、より多くの事を、より効率的にこなせるようになっている……そういう錯覚を、おぼえるわけです。

でも本当にわれわれの暮らしはよくなっているのでしょうか?

たんなる足下の景気の良し悪しではなく、将来にかけて着実に暮らし向きが良くなるためには、生産性が向上する必要があります

しかし近年、生産性の向上は横ばい気味です。

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ニュー・ノーマルと言われる、慢性的な低成長の一因は、この不可解な生産性の伸び悩みにあると指摘するエコノミストもいます。

産業革命の頃は、機械が人間に代わって仕事をすることで生産性の向上が実現されました。しかし現代では、体を動かす仕事から、頭を働かせる仕事にシフトしています。つまり「いかによりスマートに働くか?」です。

これに呼応するかたちで先行投資の中身も機械などの生産設備からIT投資へ移ってきているわけです。

上のグラフで米国の生産性が明らかに向上した時期を見ると、「ウインドウズ3.0」の導入やネットスケープのIPOがきっかけになっていることがわかります。同じデータを、前年比の変化率にしたのが下のグラフです。

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ウインドウズは1980年代に既にデビューしていましたが、本当に一般企業に爆発的に普及したのは「ウインドウズ3.0」からでした。

当時、僕の勤めていた投資銀行のアナリストが「これからはウインドウズ3.0でメモリーがどんどん必要になる」と言って半導体の株を推奨していたことが懐かしく思い出されます。

同様に、インターネットは古くから存在していましたが、本当に一般に普及しはじめたのはネットスケープのブラウザーが登場してからです。インターネット革命がもたらした生産性の向上には、当時のFRBのグリーンスパン議長ですら驚嘆の声をあげたわけです。

ひるがえって今話題になっているテクノロジーのテーマといえば、スマホ、クラウド、AIなどになりますが、こと生産性の向上という視点からは(なんとなく違うんじゃないかな)と僕は思っています。

そう考える理由は、ハッキリした効用が見えてこないからです。

もっと言えば、ROI、つまり資本投下に対するリターンが問題にされるべきだと思うんです。

もしスマホやクラウドやAIが、その謳い文句通りにわれわれのスマートな働き方を支援するのなら、なぜ生産性の向上がぜんぜんデータに出てこないのでしょうか?

思うに人々はグーグルやフェイスブックなどの会社が儲かっているということと、生産性の問題を混同しているのじゃありません?

グーグルやフェイスブックで、いま面白いようにマネタイゼーションが進捗しているということは事実だけれど、マネタイゼーションは「刈り取り」であり、イノベーションや生産性の向上とは無関係です。

実際は、FANGの寡占によりイノベーションの芽は潰されている気がします。

かつてワールドワイド・ウェブはコテージ産業みたいな様相を呈しており、テキサスのオイル・ブームに似たカオスの中から、新しいアイデアや技術がどんどん生まれていました。つまり乱世はイノベーションにとって、すごく良い状況だったわけです。

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ひるがえって今はFANGがガッチリとしたネット秩序を構築してしまったので、実は新しいことは始め難いです。

このニュー・ワールド・オーダーは、FANGの、FANGによる、FANGのための「俺様たちの世界」なのであって、我々はそれらの企業にチュルチュルと生血を吸い上げられているだけです。

つまりFANGは現代のスタンダード石油というわけです。これはディストピアでっせ。