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サイエンス

   2016年8月18日

17年周期、13年周期で大発生!! 「素数ゼミ」の謎を日本の研究者が解明した!!


日本でもセミが大合唱!!

日本でもセミが大合唱!!

厳しい残暑が続きます。暦の上では秋と言っても、暑いときのセミの大合唱は、まだまだ「ザ・夏」を感じさせるもの。
ところで「素数ゼミ」とよばれるセミをご存知ですか。素数とは、1とその数自身でしか割ることができない数字で、小さい順に、2、3、5、7、11、13、17…と続きます。北米には、ちょうど17年ごとと13年ごとに大量発生するセミがいて、「素数ゼミ」とよばれています。普通のセミとはまったく違うサイクルで生きる「素数ゼミ」。なぜ17年周期と13年周期で大発生するのでしょうか。この難問を日本の研究者が解明し、当時の生物界を驚かせました。昨日17日のtenki.jpサプリでご紹介した、「北米でセミが大発生!! 数十億匹の大合唱で電話の声も聞こえない!!」では、素数ゼミの「大量発生ぶり」についてご紹介しましたが、今回は、日本の研究者が解いた素数ゼミの謎について、ご紹介します。

謎を解き明かした吉村教授。「素数ゼミ」の名づけ親。“昆虫少年”が生物学者になった!!

将来は生物学者!?
将来は生物学者!?
周期的に発生するセミを、一般的に「周期ゼミ」とよびますが、この、17年周期、13年周期で北米に大発生するセミを「素数ゼミ」と名づけ、その謎を解明したのが、日本の生物学者、吉村仁教授(静岡大学)です。専門は数理生態学。セミのほかにも、さまざまな動物の行動を進化的な数理モデルで解析しています。幼いころから昆虫採集に夢中な“昆虫少年”だったそうです。
「素数ゼミ」は、同じ地域に、17年あるいは13年に一度しか発生しないという規則性をもちますが、どうして12年や15年ではなく、17年と13年という素数なのでしょう。吉村教授によると、それは氷河期にまで時代をさかのぼって考えなければならないようです。

氷河期を生き残るために、周期が長くなった素数ゼミ

アラスカの氷河。
アラスカの氷河。
素数ゼミは17年または13年ごとに北米に一斉に発生するわけではなく、ある地域の素数ゼミだけが、その地域だけで、17年あるいは13年という決まった周期で発生します。そして、発生する年は地域ごとにずれているので、アメリカ中が一斉にセミだらけになることはありません。
普通のセミよりも長い間地中で暮らしますが、その暮らしぶりはほかのセミとなんら変わりなく地中で脱皮を繰り返しますが、地中にいる期間が極端に長いのと、ぴったり17年と13年で出てくるところが不思議です。その謎を解くには、地球の歴史を見なければなりません。

地球にセミが登場したのは2億年以上も前です。そして時代を一気に下り、おそよ200万年前。当時は氷河時代で、すでに人類の祖先もあらわれていました。寒さは生き物たちにとって過酷な環境となりました。気温が低くなればなるほど、地中のセミの成長のスピードがどんどん遅くなっていき、これが、10年以上もの長い間を地中で暮らすことになった理由とされています。
しかし、寒い時代にやっと地上へ出たものの、交尾の相手が近くにいなければ、子孫を残すことはできません。氷に覆われた氷河時代、素数ゼミはどうやって絶滅を回避したのでしょう。

狭い範囲で大発生し、子孫を残す。生き残りのための進化

セミ以外にも、多くの生き物が絶滅に追いやられた氷河期。しかし北米には、盆地や暖流のそばではあまり気温が下がらないところがあったため、そんな“避難所”でセミはかろうじて生き残りました。とはいえ、気温が圧倒的に低いので、セミは、北部では14~18年、南部では12~15年もの長い間を地中で過ごすようになりました。
そんなノアの方舟のような“避難所”が北米にいくつもできました。しかし、寒い時代にやっと地上へ出たものの、交尾の相手が近くにいなければ、子孫を残すことはできません。“避難所”のような狭い範囲では、違う年にバラバラと羽化して子孫を残すよりは、同じ年に一斉に羽化して交尾・産卵して子孫を残すほうが効率的です。
こうして、北米のあちらこちらで、同じ場所に同じ種類のセミが同じ年に大発生するようになりました。

なぜ17年と13年周期なのか? 12年や15年ではダメなのか? その秘密は「最小公倍数」

こうやって、狭い範囲で一斉に発生することで生き残ったセミたち。しかし、なぜ、17年と13年という「半端」な周期のセミだけが生き残ったのでしょう。その秘密は「最小公倍数」にあります。素数同士だと、最小公倍数が素数でない数よりも大きくなるからです。
氷河期を生き延びた“避難所”のセミの周期は、当時は北部では14~18年、南部では12~15年でした。19年以上だと地中にいる期間が長すぎるので、18年が限界だったようです。
たとえばある年、種類が同じで周期だけが違う15年と18年のセミがいっしょに出て、子どもをつくったとします。15年後に15年ゼミが、18年後に18年ゼミが地上に出てみたら、ほかの周期のセミはいないので、以前よりもずいぶんと数が減ってしまっています。さらに、15年ゼミと18年ゼミで交雑すると、その子の周期はどうなるのでしょう。16年だったり17年だったりするかもしれません。このように、たまたま15年ゼミと18年ゼミが出会ってしまうと、何万年もかけてどちらのセミも数が減り、やがて絶滅してしまうのです。
15と18の最小公倍数は90です。つまり、15年と18年の場合は90年ごとに交雑する機会があります。一見すると、交雑すればするほど生き延びるような気がしますが、しかし、交雑の回数が多ければ多いほど、周期が乱れ、先に絶滅してしまうのです。

ここで、アメリカ北部の場合の周期を見てみましょう。15~18年周期で考えてみます。この中で素数は17です。
15~18年の4種類のセミが出会う周期を見てみると、
・15年ゼミ×16年ゼミ…240年周期
・15年ゼミ×17年ゼミ…255年周期
・15年ゼミ×18年ゼミ… 90年周期
・16年ゼミ×17年ゼミ…272年周期
・16年ゼミ×18年ゼミ…144年周期
・17年ゼミ×18年ゼミ…306年周期
となります。素数が周期の17年ゼミが入ると最小公倍数が大きくなるので、周期年数が違う群れと交雑しにくいことがわかります。
こうして、何万年何十万年も過ぎ、最小公倍数が小さい周期のセミは減っていき、最小公倍数が大きい「素数ゼミ」だけが生き残っていったのです。

今年2016年は、オハイオ州やペンシルバニア州などで17年ゼミが大発生しました。その数は、数十億匹!! 2004年にニューヨーク付近で大発生した素数ゼは、次は17年後の2021年といわれています。アメリカの気象予報にはぜひ、「今年のセミ予報」がほしいところですね。
昨日17日のtenki.jpサプリに続き、2日にわたって素数ゼミについてお伝えしました。このように素数ゼミが生き残ってきた過程を見ていくと、「いかに子孫を多く残すか」をテーマとした生物の「進化」について、少しずつ解き明かされていくように思えます。一人の日本の“昆虫少年”が素数ゼミの謎を解き明かし、今もまた研究を続けています。次はどんな生物の秘密を解き明かしてくれるのでしょうね。

参考サイト:日立 オープン ミドルウェア レポート ウェブ「数理的発想⑥〈セミとモンシロチョウが教えてくれた進化の真実・吉村仁〉」
参考文献(1):17年と13年だけ大発生? 素数ゼミの秘密に迫る,吉村仁,2008,サイエンスアイ・新書
参考文献(2):素数ゼミの謎、吉村仁,2005,文藝春秋

(2016年8月18日)


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