異形の配信ドラマ『仮面ライダーアマゾンズ』の挑戦的表現を語る
『仮面ライダーアマゾンズ オリジナル・サウンドトラック』- インタビュー・テキスト
- 麦倉正樹
- 撮影:関口佳代 編集:山元翔一
もはや子ども向けとは言えないダークな世界観、大人の鑑賞にも耐え得る骨太なストーリー、そして「養殖」と「野生」の対立という先鋭的なモチーフ……現在Amazonプライム・ビデオで全13話が配信中の『仮面ライダーアマゾンズ』(以下、『アマゾンズ』)は、仮面ライダー45周年記念プロジェクトとして制作された完全新作の仮面ライダー作品でありながら、その随所に数々の野心的な試みがなされた、まさしく異形のシリーズとなっている。その仕掛け人となったのは、「平成ライダー」の生みの親であるプロデューサー白倉伸一郎。彼は配信ドラマという新しいフォーマットのなかで、今改めて「仮面ライダーの本質とは何なのか?」を問おうとしているのだ。
そしてもう一人、『アマゾンズ』の独創的な世界を構築するうえで、欠くことのできない人物がいる。これまで、『世にも奇妙な物語』や『NIGHT HEAD』といったドラマ作品、あるいは『蟲師』『叫』『呪怨 ―ザ・ファイナル―』といった映画作品で、「恐怖感」「緊迫した状況」「微妙な心理状況」などを音楽で表現してきた劇伴界の鬼才・蓜島邦明だ。
無限の音色を持ったソフトシンセを操りながら、ほぼ全編たったひとりで多彩な楽曲を生み出してしまう蓜島。『仮面ライダーカブト』で白倉とタッグを組んで以来、約10年ぶりとなる仮面ライダー作品に、彼はどのような音楽アプローチで臨んだのか。『アマゾンズ』の音楽が生まれる経緯についてはもちろん、本作が世に訴えかけるものについてまで、白倉と蓜島の二人に語ってもらった。
劇伴の場合、どういう感じの曲が必要かっていうのは、もう大体わかっている。(蓜島)
―今回の『仮面ライダーアマゾンズ』の独創的な音楽が生まれていった経緯について、まずは教えていただけますか。
白倉:最初に、私や石田(秀範)監督、選曲家の大森(力也)さんとで蓜島さんと打ち合わせをさせていただいて。事前に企画書とかを読んでいただいて番組のご説明をして、「必要だと思われる曲のリストを用意しますか?」って訊いたんですよ。そしたら、「いや、いらないです」と言われまして(笑)。
蓜島:すみません(笑)。そういうものを一生懸命書いてもらっても悪いなあと思って。
白倉:「30曲ぐらいでしょ? じゃあ、それぐらい作ってみるから、足りなくなったら言ってください」と。で、「僕が必要だと思う曲は、クモの曲でしょ、トンボの曲でしょ、アリの曲でしょ」とおっしゃられるので、「えっ、それいるのかな?」と思いつつ(笑)。だから、基本的には、ほとんど蓜島さんにお任せでしたね。
―劇伴作家のなかには、「こういう楽曲が欲しい」というオーダーが書かれた「音楽メニュー」みたいなものを音効さんが作りそれを元にお仕事される方もいらっしゃるんですよね。蓜島さんの場合、そういったメニューをあらかじめいただかない場合が多いですか?
蓜島:最近多くなりました。もちろん、そういうものをちゃんと作ってくれる人もいるんですけど、メニューがあると音効さんの方が考えた世界観に縛られてしまうような気がして。そうなると、その感性のなかでの話になってしまうじゃないですか。メニューに合わせて音楽を作ると、どうしても世界が小さいものになってしまうと思うのです。だったらもう、最初から全部自分で考えさせていただたほうがイメージは膨らみやすいのです。
それに劇伴の場合、どういう感じの曲が必要かっていうのは、もう大体わかっているので。まあ、もちろん、それだとみなさん心配されるので、最初に10曲ぐらい作って聴いてもらったりするんです。最初の打ち合わせをする前に、イメージをわかっていただくため本気で作ったものを何曲か用意することもあって。
白倉:それはすごいですね(笑)。
蓜島:最初に話をいただいたときに何となくのイメージあると、それを元にいろいろ考えて、何曲かできてしまうことがあるんですよ。で、それを最初の打ち合わせに「こういう感じですか?」って持っていったら、「そうですね。こういう感じでいきましょう」(笑)。そしたら、メニューはいらいないことになるじゃないですか。僕のわがままではあるんですけど。ただ、僕の場合、そういう形が自分との勝負ができ、本気にさせてくれるのです。
それに『アマゾンズ』の世界って、ある種、仮想現実じゃないですか。現実性じゃない部分の世界観で動いているというか。だから、その世界観を一度作ってしまえば、そのスピード感みたいなものは、自ずと出てくるんですよね。それはいただいた映像を見ていると、すごくよくわかったので。
リリース情報
- 蓜島邦明
『仮面ライダーアマゾンズ オリジナル・サウンドトラック』(2CD) -
2016年8月3日(水)発売
価格:4,104円(税込)
COCX-39656/7[DISC1]
1. アマゾンズ
2. バン
3. キック
4. 実験体
5. モグラー
6. アマゾンバイク
7. それって人間
8. 消滅
9. 冷凍庫
10. 僕の中から出ようとしている
11. 細胞
12. 変形
13. 狩らなければ
14. お前はヤバすぎ
15. アマゾンサルサ
16. 肉の匂い
17. おはようございます
18. ハラヘッタ
19. アマハレーハ
20. スーツ
21. 一つの世界
22. 自分は人間
23. ハンバーガー
[DISC2]
1. コード
2. マレー
3. 誰かの命を食らう
4. 蟻の軍団
5. 事故から2年
6. 美月
7. シンクロ
8. 生き残った
9. 僕は助けられない
10. たくらみ
11. ガス
12. 駆除班
13. 銃を撃て
14. お食事優先
15. 会長
16. アパート
17. ホントに自由
18. 最後の一発
19. 疑問
20. 全部の理由
21. マレー30
22. マレー15
23. Armour Zone
番組情報
- 『仮面ライダーアマゾンズ』
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原作:石ノ森章太郎
脚本:小林靖子
監督:石田秀範、田﨑竜太、金田治アクション監督:田渕景也(Gocoo)
音楽:蓜島邦明
撮影:上赤寿一、朝倉義人、岩﨑智之
キャラクターデザイン:田嶋秀樹(石森プロ)
キャラクター&クリーチャーデザイン:小林大祐(PLEX)
プロデュース:白倉伸一郎、武部直美(東映)、佐々木基、梶淳(テレビ朝日)、古谷大輔(ADK)
出演:
藤田富
谷口賢志
武田玲奈
東亜優
俊藤光利
小林亮太
馬場良馬
宮原華音
勝也
田邊和也
朝日奈寛
加藤貴子
小松利昌
神尾佑
藤木孝
配信情報
- 『仮面ライダーアマゾンズ パフォーマンスショー』ライブ配信
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2016年8月18日(木)19:00~19:25(予定)
プロフィール
- 蓜島邦明(はいしま くにあき)
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建築様式におけるオブジェ、様式美術に興味を持ち、デザイン彫刻を目指すも、そのマテリアル探求の過程で出会った「素材の出す音」に触発され、音を使った世界観で表現を確立したいと思い作曲家となる。「恐怖感」「緊迫した状況」「微妙な心理状態」等を楽曲で的確に表現できる稀有な作家として日本の第一人者であり、独自のファン層から厚い支持を受けている。日本の著名な映画監督作品へ楽曲提供をするとともに、フジコ・ヘミング、デヴィッド・シルヴィアン等世界的なアーティストとのコラボレーションも果たし、手掛ける作品もフランス、中国、台湾等海外まで拡大。2007年には「蟲師」(大友克洋監督)サウンドトラックが第40回シッチェス・カタロニア国際映画祭において最優秀映画音楽賞を受賞。代表作は「世にも奇妙な物語」「ナイトヘッド」「クーロンズゲート」「スプリガン」「MONSTER」「マスターキートン」など。
- 白倉伸一郎(しらくら しんいちろう)
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東映株式会社取締役、東映テレビ第二営業部長。1965年生まれ。1990年東映株式会社入社、テレビ部に配属。91年『鳥人戦隊ジェットマン』『真・仮面ライダー/序章』に参加。遍歴を経て、『仮面ライダークウガ』(2000年)で特撮番組に復帰。『仮面ライダーアギト』(2001年)、『仮面ライダー龍騎』(2002年)、『仮面ライダー555』(2003年)と「平成ライダー」のチーフプロデューサーを歴任。以降も仮面ライダーをはじめとする数々の映像作品に携わる。