1/1
《part:number=01:title=prologue》
ねぇ、知ってる...。
御冷ミウカが話を切り出す時はいつもそれがアタマにくっついている。
私の好奇心と猜疑心を開放するパスワード。
呼び鈴、と言ってもいいかも知れない。私は犬のように飛びついて、おやつが与えられるのを待つのだ。
彼女が持ってくる話題はいつも捻くれていて、他のクラスメイトが聞いたら顔を顰めてしまうようなクセモノばっかりだ。
そんなクセモノに夢中だった私もやっぱり世間一般の女子高生に比べたら捻くれているに違いなかったけれど、御冷ミウカにはそれだけじゃなかった。捻くれているのはその1部の結果として表面に出てくるもの。彼女の中にはもっとぶっ飛んだ思考も存在していて、同時に世間一般の思考も持ち合わせているのだ。怪物だ。
彼女に私のような捻くれた友達しかいなかったのは、たまたまという暴力的な言葉でも説明はなんとかなるけど、一番しっくりくる内的要因は彼女が世間一般的で捻くれててぶっ飛んでたこと。
全部混ぜ込んだらあら不思議、ベクトルは「捻くれてる」におさまる、という訳だ。
「ねぇトウカ、人に起こるどんな悲劇も、遠くから見れば喜劇なんだって。喜劇王のチャップリンがそう言ってた...。
彼はきっとその時世界中に溢れていた可哀想な運命の人達を勇気づけようとして言ったに違いないけど、聞く人が聞くと...私みたいな人間が聞くと、こう思っちゃうよね...。『他人に起こるどんな悲劇も、また別の他人から見れば喜劇なんだ』って」
そういうことを、授業と授業の間、つまり殆どの生徒が教室に残っている休み時間に言う子だった。
友愛を、公共の福祉を、自を重んじよと、刷り込まれて擦り込まれることに辟易していた私と、みんなが幸せになれる未来をとか恥ずかしげもなく掲げる社会そのものを斜め上から嘲うミウカ。
高校生という立場は無力だったけれど武器が無かった訳じゃない。社会に向ける視線そのものが、私とミウカの矛だ。
そして矛を錬成するのはミウカの集めてくるこういった話題。
人間の薄汚さ。性悪さ。無情さを体現した人達の『偉業』と呼べる出来事だったり、格言だったり。
私達の密やかな戦争は生温い日常に心地よく亀裂を築いて、私はそのミウカと戦った戦利品としての傷を誇らしくも思ったものだ。
けれど多くの名の無い功績を成し遂げた私達は戦友であることを終えてしまう。仲間割れとも言おうか。絶交とも言おうか。
他ならぬミウカの死によって私達の最後の戦利品である傷を受け取った私だったけれど、私は今でも彼女が死んだという事実までは受け入れられないでいるのだ。
まるで永遠と続く映画のエンドロールを見ているかのように。
+注意+
特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。
この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はケータイ対応です。ケータイかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。