東京都心部でタクシーの初乗り値下げに向けた実証実験が始まり、来年には本格導入される見通しだ。全国的に規制の混乱や乗客離れが続く業界だが、安さだけでなく質も含めた変革を求めたい。
東京の初乗り料金は世界一といっても過言でないレベルだ。短距離を安く利用できるようになれば、子供連れや訪日外国人観光客、荷物を抱えたり悪天候に見舞われたりした時に助かるだろう。
現行料金は「初乗りで二キロまでが七百〜七百三十円」、それを超えると二百八十メートルごとに九十円加算される。
これを「初乗り一・〇五九キロまで四百十円」、二百三十七メートルごとに八十円の加算とする。二キロの乗車で現行と同料金となるので、それより短距離なら安く、長距離だと高くなる計算だ。
名古屋の初乗り(約一・三キロ)が四百八十〜五百円、他の主要都市は六百円台が大半なので、金額だけみれば異例の安さになる。海外でもニューヨークの初乗り二・五ドル(約二百五十円)にチップを加えた額と遜色ない水準だ。
タクシー料金は上がるばかりで下がることはほとんどなかった。東京では一九九七年に一部の会社が一キロ三百四十円に引き下げた例はあるが、台数がごく一部にとどまり約五年しか続かなかった。
それは利用者よりも業界の自己都合を優先した結果ではないか。二〇〇〇年代初めに小泉内閣が進めた規制緩和で台数や運転手が増え競争は激化したが、景気低迷もあり乗客は減り続けた。この十年でタクシー輸送人数は二割以上も落ち込んだ。業績悪化と運転手の賃金低下という悪循環に陥った。
しかし、経営が厳しくなると、業界は自助努力より政治や行政に保護を求めることを優先させた。結果的に国土交通省が運賃の上限・下限を決めたり、新規参入禁止や減車を命じられる規制強化が進んだ。これらは業績回復の決定打にはなり得ず、逆にワンコインなど格安業者が裁判に訴え、政府側が敗れる判断も相次いでいる。
つまり自らの変革なしに安易に規制に頼っても社会は受け入れてくれないのだ。今回の初乗りの料金引き下げは「ちょい乗り客」を促す効果は期待できるかもしれないが、売り上げ増となるかは業界内にも疑問があるという。
安さばかりでなく、高齢化社会をにらんだバリアフリー化や外国語対応、定額で乗り放題といった料金多様化などサービス向上を通じた業績改善こそ目指すべきだ。
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