北欧諸国は、よく「高負担高福祉」と言われます。本当にそうなのか、もしそうならなぜ国民は高負担を受け容れているのか。それをこの本で調べてみました。スウェーデンに的を絞ってみます。
※このメモの目的は「北欧は素晴らしい、日本はだめだ」という主張に与することではありません。単純に、冒頭の疑問に対し調べてみた結果と、それについての感想をメモしています。
本当に高負担高福祉か
この本に掲載されているデータをまとめてみました(以下、すべてのデータは記載のない限り本書からのものです)。
項目 | スウェーデン | 日本 |
---|---|---|
国民負担率(税・ 社会保険料÷国民所得) |
69.5% | 38.3% (国債を含めると50%超) |
付加価値税率 | 25%(最高) | 5.0% |
法人税率 | 25.0% | 約38% (震災復興分含む) |
たしかに国民は高い負担(税金)を受け止めています。一方で、法人税は日本よりも安い。では「高福祉」はどうか。
項目 | スウェーデン | 日本 |
---|---|---|
社会保障給付費 (対GDP) |
27.3% | 18.7% |
公的教育支出率 (対名目GDP) |
6.8% | 3.4% |
積極的労働市場 政策費率(対GDP) |
1.1% | 0.5% |
家族関係支出率 (対GDP) |
3.4% | 1%未満 |
国や自治体は、日本に比べいろんなものにお金を出していますね。「高福祉」と言えると思います。
なぜ高負担を受け入れるのか
本書では、理由を3つ挙げています。
1. 税・社会保障が地方分権型となっているため。受益と負担の関係が見えやすいそうです。ここから先は私の推測ですが、日本だといったん政府がお金をとりまとめて地方へ分配するので、特に都市生活者は割にあわない感が大きいが、スウェーデンのように地方自治体で税の支払いとサービスがリンクしていたら税率やサービス水準の見直しも働きかけやすい、ということかもしれません。しかしそうすると、都市部に人口が集中している国はこのモデルは導入しにくい気もします。
2. 社会保障の内容が高齢世代に偏ったものではなく、現役世代にも恩恵をもたらすものであり、納税者の納得感が高いため。それは上記「高負担」の表を見ても分かりますね。これは高負担あっての高福祉なので、にわとりたまごな話ではあるのですが、そこで大事になってくるのが次の理由です。
3. 政治・政府に対する国民の絶大な信頼があること。本書曰く「1930年代以降、高福祉国家を確立する歴史的なプロセスのなかで、相互の信頼関係が時間をかけて醸成されてきたことによるものだ。国民は国家に貯蓄するという感覚で税を支払っているのである。」これを象徴しているのが、スウェーデンの投票率が80%を超えているという事実ですね(日本の2013年参院選の投票率は52.61%)。「投票しても何も変わらない」と考えている人が少ない、ということなのかもしれません。
その結果
高負担高福祉を含む、スウェーデン政策の結果を以下の表にまとめました。
項目 | スウェーデン | 日本 |
---|---|---|
男性の育児休暇 取得率 |
約80% | 2.6% |
女性就業率 (15-64歳) |
73.1% | 59.8% |
ジニ係数 (所得格差を表す。 値が大きいほど 格差が大きい社会) |
0.23 | 0.32 |
1995〜2008年 GDP増加率 |
44% | 13.8% |
(育児休暇取得率:内閣府「スウェーデン企業におけるワーク・ライフ・バランス調査」2005年・厚生労働省「女性雇用管理基本調査」2004年、GDP増加率:内閣府より、その他:本書より)
男性の子育て参加、女性の社会進出、格差解消が日本より進んでおり(少なくともデータ上は)、何より、経済成長も実現できています。日本はバブルがあったからその後遺症で経済成長が停滞した?私もそう思っていたのですが、スウェーデンも1987〜1990年に不動産価格が上昇、その後下落、金融機関が不良債権をかかえるようになるなど、日本とそっくりのバブルを経験しています(規模は日本よりずっと小さいですが)。高負担高福祉制度は経済成長できない、という声を時々耳にしますが、それはここ20年のスウェーデンにはあてはまらないようです。
日本とスウェーデンでは、文化や歴史、何より経済の規模がまったく違う(スウェーデンのGDPは大阪府より少し多いくらい)ので、スウェーデンのやり方は日本にはなじまないとの声もよく耳にします。たしかにそういう面もあるでしょう。しかし、参考になるところはあるでしょうし、日本も今後地方分権が進めばそれぞれの地域の規模はスウェーデンに近づくかもしれません。冒頭にも書いたように「北欧は素晴らしい、日本はだめだ」と主張する気はまったくありませんが、参考になるところは貪欲に取り入れてもいいのでは、と思います。単なる真似でなく、日本で効果がありそうなものは取り入れる。そういう姿勢が重要だと思うのです。では何を取り入れるか?個人ベースで思いつくのは、まずは現役世代である私は投票には必ず行くこと、本書を読んで自分が感じた優先順位の高い政策を実現してくれそうな政治家を応援すること、かなあ・・・
その他
高負担高福祉の話とは直接関係ありませんが、驚いたのが個人情報の利用について。国民に個別番号が付与されているのはもちろん、それらの情報が、個人を特定できないベースかつ本人が希望すればの話ですが、民間会社にも提供されています。例えば引っ越しの際はワンストップで各種変更が完了しますが、それは各行政機関だけでなく金融機関・保険会社・クレジット会社にも通知されます。まあこれは、個人的には便利でよいと思います。
でも、これはちょっとな・・・と思ったのが、姓名・住所・性別・所得情報の提供。国税庁所管の機関SPARが有料で企業に販売しているのです。企業はこれをもとに自社データベースを更新したり、ダイレクトメールを送ったりしています。Tポイントよりすごい。もちろんこれは拒否できるのですが、拒否している人は国民の1.4%しかいないとのこと。これも、国家に全幅の信頼があるから(SPARはどんな企業にも情報提供するわけではなく、厳格な審査を行っているそうです)なんでしょうか・・・