こちらに来てから「なんでエストニアの大学を選んだの?」ということをよく質問されるのですが、わたしはいつも「経済的な理由で日本国内の大学への進学は不可能だったので、ヨーロッパに来るしかなかったの。そのなかでエストニアがいちばん魅力的だったから」と正直に答えております。人間正直なのがいちばんです。
留学生も学費無償(または非常に格安)らしいドイツやフランスやフィンランドとは違って、エストニアの国立大は外国人学生に対しては原則として学費を徴収します(※実は無償のコースもあったりするけどそれはまた別の機会に!)。しかしそれでも日本の大学に比べればずいぶんお安いんですよ。旧ブログに書いたとおり、わたしの所属するタリン大学の教養学部の場合は年間40万円ほどです。日本の国立大学の初年度納入金の半額くらい。
エストニアに正規留学する場合にかかる費用について - エストニア共和国より愛をこめて
エストニアの大学のBA課程は3年で日本より1年短いのと、あと授業料とは別の「入学金」みたいな費用もないので、卒業までにかかる学費は単純に40万円×3年分で、120万円くらいになる見込みです(もちろん為替変動があるのでご注意を)。
生活費についても、先のブログに書いたように、学生寮に住んでいるので衣食住・保険・インターネットをすべて合計して月5万円程度です。
日本の大学はどうでしょうか。ちょっと古いものですが、日本の私立大学の学費と奨学金問題を扱った記事です。
記事中ではある私立大学を例について解説していますが、
学費は、4年間で450万円。これに生活費が加わることで、学生は卒業までに約800万円程度を負担することになる。一般的な文系の私立大学なら、この程度の費用がかかることは普通だ。
とのこと。学費だけで450万円!!! いくらなんでもこりゃ高すぎますな。わたしの通っている大学の学費の4倍近い金額です。
私立大学との比較はおかしい(タリン大学は国立)というご意見をいただきそうですが、国立大学の学費も昔とは比較にならないほど値上がりしてしまっていて、卒業までに250万円くらいかかるようなので、やはり結構な額です。わたしの大学の学費の2倍以上ですからね。
というわけで、少なくともエストニアで大学生になれば、日本の大学に通うよりはるかに低予算で学問ができる、ということになります。海外留学なんて裕福な家の子女がするものだと思っている人が多そうですが、日本で高等教育を受けたほうがよっぽどお金がかかっちゃうことになります。しかもヨーロッパの大学の場合、ふつう学力試験は課されず、エッセイの提出および最終学歴の成績のみで審査されますので、入学するだけならかなり簡単だと思いますよ(※ただし学科や選考にもよります。あとわたしが受験したタリン大学の場合、Skypeを使った口頭試問がありました)。てか、わたしですら合格できたくらいだからほぼ「全入」なんじゃないのかなこれ。
どうやってエストニアの大学に入ったの? - エストニア共和国より愛をこめて
しかしね。これわたしがたびたび言っていることなんですが、「自国では経済的理由により高等教育の機会を享受できなかった外国人を、人口130万人の小さな国が留学生として迎えて貴重な教育機会を与えてくれている」という話なわけで、日本の教育政策ってほんとにだいじょうぶなんですかってことになりますよねえ。いやあきらかにだいじょうぶじゃないですけれど。
以前ツイッターをやっていたころ、この話を書いたら「もはや日本の社会保障制度の敗北ではないか」と反応してくれた方がいらっしゃましたが、ほんとにそうですよこれ。わたしは優秀な人間でもなんでもないので日本国にとってはどうでもいい存在だろうけど、このまま教育費用の高騰が続いたら、優秀な若者からどんどん国外に流出してしまうのでは。
もちろん大陸ヨーロッパにも社会階層が存在し、貧困もとうぜんあるわけですが、階層や貧困そのものが固定化されてしまわないために「高等教育の機会も出身家庭の経済力にかかわらずできる限り平等に与えられるべきだ」という考え方が根底にあるっぽいんですね。だから公教育は原則として無償となっているし、学生への社会保障も手厚いのです。
対して日本はどうかというと……ここで説明するまでもないですかね。みなさますでに十分ご存知かと思いますので。
まったくイメージがわかない方はYahooニュースなどで検索して、「奨学金問題関連をとりあげた記事に付く読者コメントの数々」を眺めてみてください。「借りた金を返せないとは何ごとだ!」「そもそも金がないなら進学するな!」「甘えるな!」とか、目をそむけたくなるような惨状を呈しているはずです。
とかく奨学金や高等教育の学費といった格差にかかわるトピックってある種の人々を刺激しちゃうみたいで、そのコメント欄はたいてい悲惨な感じになります(そういうの読むとわたしは日本を離れることができてほんとうによかったなあと実感します)。かれらは「家の経済力で子どもの進学機会が左右されてしまうことの不平等性」にはおそらく墓に入るまで気が付かないことでしょう、そのような発想がそもそも無いでしょうから。
ところで記事タイトルの「※英国を除く」という注についてですが、イギリスは大陸ヨーロッパとは社会制度がぜんぜん違うのですね。大学の学費も日本やアメリカと同じように高額です。ただし奨学金その他の補助を駆使すればもしかしたらなんとかなるかもしれないので、各自お調べいただければと思います。