2008-06-27
人工ブラックホールはなぜ安全か
CERNの大型ハドロン加速器(LHC)は1週27キロメートルある円周を使って陽子を回転させ衝突させる機械です。なぜこんなことをやるのかというと、衝突の瞬間莫大なエネルギーが生まれビッグバン以来実現しなかったエネルギーの状態を人工的に作り出せるからです。さて、この実験でミニ・ブラックホールが生成される可能性があります。*1
ブラックホール。天体ですらも飲み込み光ですらも脱出できない時空の穴。そんなものがこの地球上で生まれたら地球も丸ごと飲み込まれてしまうじゃないか。人類を滅亡させる気か!
―――という感覚的な意見を持つ人が多いと思います。しかしこの実験で生まれるミニ・ブラックホールは電子の質量の千倍程度のサイズで、10−23 秒程度しか存在しないとされています。
なんで? ブラックホールなら一度出来たが最後ありとあらゆるものを飲み込むんじゃないの?
しかし、同時にブラックホールは蒸発して最後には素粒子のサイズまで縮んでしまうものなのです。このブラックホールの蒸発はホーキング放射と呼ばれています。このホーキング放射について分かれば、ミニ・ブラックホールの安全性が分かるはずです。
ホーキング放射
まず前提として言いたいことは、この宇宙ではどんなに非常識なことでも起こりうる、ということです。常識や理論というものはすべて過去の経験から類推した経験則です。昨日までこうだったから、きっと明日もこうだろう、という程度もので、絶対確実永久に100%正しい事実ではありません。とはいえ太陽は東から昇るわけですし、リンゴは木から落ちます。ニュートン力学は日常生活を送るうえでは100%正しいといっても過言ではありません。
さてそんなニュートン力学が通用しないのがミクロの世界です。人が壁を通り抜けるという奇怪な現象はマクロの世界ではありえませんが、ミクロの世界ではトンネル効果として普通に起こる現象です。量子力学はこのようなミクロの現象について多くを解明してきました。そのひとつに仮想粒子というものがあります。真空は物質が何もない状態だとされていますが、実は仮想粒子が絶えず生成してはぶつかって対消滅しているというにぎやかな状態なのです。*2
真空から突然粒子が出てきたら、「質量保存の法則」に反するだろ!
「質量保存の法則」は長期的には正しくてもほんのわずかの時間ならば破ることが可能です。さて、この仮想粒子の生成がブラックホールの近くで起こったらどうなるでしょう。
左がブラックホール。右が真空中で突然生成する粒子。
● ○←→○
● ○三二一一二三○
●○三二一 一二三○
●三二一 一二三○
● 一二三○
これを簡単にいうと
- ブラックホールに粒子が1つ吸い込まれた
- ブラックホールの近くで粒子が1つ発生した
となります。しかしこれは「質量保存の法則」に反する事態です。まず何もしていないのにブラックホールは突然質量が増えてしまいました。さらにその近くで突然粒子が1つ発生しました。ここでようやく「質量保存の法則」は「これはいかん」と重い腰を上げて事態に対処しようとします。そして
- ブラックホールから粒子が1つ飛び出た
というふうに事態を改竄し、「質量保存の法則」を守ることに成功するのです。たしかにちょうど最後だけ見れば、ブラックホールから粒子が飛び出しているみたいです。これがブラックホールの蒸発です。
この蒸発はブラックホールが小さければ小さいほどスピーディに進行します。熱い鉄板の上に、多きな氷の塊をのせてもなかなか融けませんが、ひとかけらの氷なら一瞬で蒸発するのと同じです。
今回の実験で生じるミニ・ブラックホールは電子の質量の千倍程度ですから、10−20 グラム以下という極小サイズ。地球規模の質量ならともかく、その程度の質量なら引力もごくわずかで、何かを飲み込む前に蒸発してしまうでしょう。しかもそのミニ・ブラックホールを上回るエネルギーの宇宙線は日々地球に降り注いでいます。この宇宙線を調べれば年に10回ほどミニ・ブラックホールが見つかるのではないかと実際に観測をしている研究所があるくらいです。
さあ、ここまでくれば人工ブラックホールがなぜ安全なのか、なんとなく理解できたと思います。ここまでの話は理論物理学の世界的権威であるミチオ・カクが著した「パラレルワールド 11次元の宇宙から超空間へ」を参考にしました。
*1:私たちの宇宙が唯一の宇宙ではなく、たくさんの平行世界を膜のように重ね合わせた宇宙のひときれでしかなかった場合、ミニ・ブラックホールが生まれます。宇宙全体が何次元なのかを測るうえで重要な実験です。
*2:実際にカシミール効果と呼ばれる現象で、仮想粒子の存在は実証されています。2枚の平行な板を限りなく近い距離で置いておくと、その2枚の板の間に引力が生まれるという現象。アリの重さの3万分の1程度という非常に小さな引力であった。平行な板のすきまは非常に狭いため、仮想粒子はそのすきまに生じにくい。つまり、板のすきまより周囲のほうが仮想粒子は多くなるので、結果的に平行な板を両側からわずかに押す内向きの力が生じる。
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