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 ADHDが疑われる主婦・サチコさん(40代女性)には、こんなことがしょっちゅうあります。

 

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 サチコ 「あの子、そういえば、新しい靴が欲しいって言ってたっけ」

 さらに買い物を続けようと、靴屋のレジでクレジットカードを出したところ「お客様、このカードは使えなくなっています」と言われてしまいました。今月の限度額を超えているようなのです。サチコさんの財布は、クレジットカードの利用明細やレシートなどでパンパンに膨らんでいます。サチコさんは、靴を買うのをあきらめました。

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 サチコさんはいつだって、自分に必要なものだけを買っているつもりですが、気づくといつも生活費が足りなくなっています。昔から貯金は苦手なタイプでした。特にクレジットカードを持ってからは、いつもお金のことが心配でなりません。残高が足りるのか心もとないまま、生活しています。いつカード会社から連絡が来るかと、どぎまぎしているのです。かといって、家計簿をつけても3日と続きません。

 

 実は、サチコさんに限らず、ADHDをもつ人は、お金の管理が苦手です。

 理由はさまざまですが、現実的・直接的な理由はいくつか指摘されています。①衝動買いが多い、②ギャンブルに夢中になって借金する、③クレジットカードの限度額を把握できない。こんなことが直接の引き金となっているようです。

 それでは、どうして大人のADHDの方は、衝動買いをしてしまったり、ギャンブルに依存してしまったり、クレジットカードを使いこなせなかったりするのでしょうか。

 実は、これらも脳の特性と大きく関係しているのです。

 

①衝動買い:

 前回お伝えしたとおり、研究によるとADHDの方の脳は、「今買ったら、お金が足りなくなる。だから我慢!」とブレーキをかけても、そのブレーキが他の人よりききにくいことがわかっています。さらには、買い物ほどすぐに結果が手に入るものはありません。報酬遅延勾配が急な、つまり、待つのが苦手ですぐに手に入るものを好むADHDの方には、買い物は大きな楽しみです。

 買い物の基準を「欲しいかどうか」ではなく、「これがないと生きていけないかどうか」に変えてみましょう。もっと衝動買い名人の方は、「バーゲンの季節は財布には限られた現金しか入れない」といった物理的な防御策にでましょう。

 

②ギャンブルにはまりやすい:

 ADHDの方の脳の研究によれば、報酬系とよばれる脳の部分に大きな特徴が見られるそうです。ADHDの人は、他の人が回避するようなリスクを冒してでも、大きな報酬が得られる方を選ぶそうです。まさに、「虎穴に入らずんば虎子を得ず」ですね。逆にいえば、同じことの繰り返しや古いものには、全く興味を引かれず、こうしたリスキーな状況でないと興奮できないという特性があるのです。

 ギャンブルこそ、変化に富み新鮮さを失わず、報酬が明確ですぐに得られる、ADHDの方の脳が喜ぶ刺激なのです。ここまでばっちりな刺激があると、「過集中」とよばれる、夢中になって何時間でも集中できるような状態へ移行します。普段の注意力散漫の様子からすると別人です。まさに「入り浸り」の状態になるのです。

 ADHDでまだギャンブルの経験のない方は、どうぞ最初からお控え下さい。ギャンブルでなくとも、ネットゲームも依存性が高く、課金で破産する人もいるほどです。最初から刺激を避けるのが賢明です。

 

③クレジットカードの限度額を把握できない:

 クレジットカードでお金の管理ができなくなる方は、ADHDの方に限らず、けっこういらっしゃいます。原因のひとつとして、情報の「つかみ方」に特徴があるといわれています。情報のつかみ方には大きく分けて2タイプあり、物事を“感覚的に”つかむタイプと、“データや数字などに基づいて”つかむタイプの方がいらっしゃいます。前者を非言語的記憶が優位なタイプ、後者を言語的記憶が優位なタイプといい、お金の管理が苦手な方は、前者に当てはまることが多いのです。

 物事を数字やデータに基づいて捉える、「言語的記憶を優先的に用いている人」は、クレジットカードの明細書に書かれている数字や、銀行の残高金額などの数字だけで、お金の残高を把握できます。これに対して、物事を感覚的に捉える、「非言語的記憶を優先的に用いている人」は、実際に「あと何枚お札がある」と見たり(視覚)、「財布がこのくらい膨れている」と触れたりして(触覚)、お金の残高を把握した方がピンとくるのです。もちろん、数字やデータを読めないわけではありません。文字としてわかっているし、意味を頭で理解はしているのです。しかし、数字を見ただけでは“実感”として、「お金がこれだけしかないんだ!」とわかりづらいということです。このために、使い過ぎや、クレジットカード破産が生じやすくなります。

 ADHDの方で、お金が溜まらないという方は、一度だまされたと思って、クレジットカードを封印し、「現金管理」に変えてみてください。つまり、非言語的記憶をフル活用してみるのです。クレジットカード明細という数字による感覚(言語的記憶)で失敗しているのですから、財布に入れたお札の分厚さや、使えば目に見えて減って行く重さの変化、並べてみたコインの数の見た目で、お金を管理していくのです。

 

写真・図版

 いかがでしたか? このサチコさんのお話は次回も続きます。

 

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<アピタル:上手に悩むとラクになる・主婦の隠れたADHD>

http://www.asahi.com/apital/healthguide/nayamu/(アピタル・中島美鈴)

アピタル・中島美鈴

アピタル・中島美鈴(なかしま・みすず) 臨床心理士

1978年生まれ、福岡在住の臨床心理士。専門は認知行動療法。肥前精神医療センター、東京大学大学院総合文化研究科、福岡大学人文学部などを経て、現在は福岡県職員相談室に勤務。福岡保護観察所、福岡少年院などで薬物依存や性犯罪加害者の集団認知行動療法のスーパーヴァイザーを務める。趣味はカフェ巡りと創作活動。