「母親は、自分を産んでくれただけの知人です」お盆の帰省が億劫だったあなたへ
「お母さんといると、何となーく居心地が悪い」。「毒親」とまではいかなくとも、母の前だと自分らしく振る舞えず、お盆の時期の帰省も億劫に感じた…という人もいるのではないでしょうか。ベストセラー『母が重くてたまらない 墓守娘の嘆き』(春秋社)をはじめ、母娘関係についてさまざまな著作を持つ原宿カウンセリングセンター所長・信田さよ子(のぶた・さよこ)さんは、「そう感じるのは当たり前だ」と言いきります。
バリキャリ女性の8割は母娘関係に悩んでいる
信田さよ子さん(以下、信田):2008年に『母が重くてたまらない 墓守娘の嘆き』が話題になってもう8年が経ちますが、カウンセリングにいらっしゃる方は増えています。いわゆるキャリアウーマンでも、友人に対しては自信たっぷりに振る舞えるけれど、母親の前だとおどおどしてしまう、母の言葉に全部反応してしまうという人が多いんですよ。
これまでに雑誌やテレビなどでさまざまなインタビューを受けてきましたが、インタビュアーはすべて女性でした。そして全員が全員、母親との関係に悩みを抱えていたんです。そう考えると、高学歴で、働いている女性の8割くらいは母との関係に何らかの問題を抱えているんじゃないか、と。あくまで私の想像、体感ではありますが。
――8割というと、働いている女性の大半が多かれ少なかれ悩んでいるわけですね。
信田:ええ。悩みを聞いてみると、とんでもないお母さんの話が飛び出します。
――印象に残っている「お母さんエピソード」はありますか?
信田:これまで私が聞いた中で一番強烈だったのは、「自殺しちゃうお母さん」ですね。相談者は現在50代の女性なんですが、母親から虐待を受け、小学校5、6年生の頃からは「中高一貫の一流女子高に通って、ピアニストになる以外の人生を認めない」とがんじがらめにされていたんです。塾に通う以外は、ピアノの練習しかしちゃいけない、と。
母親が果たせなかった夢を、ひとり娘に託したわけです。それである日、娘さんが逆襲に出ました。「もうイヤだ! お母さんの言うことに従うくらいなら、売春する!」と叫んで。「そんなことしてごらん。お母さん、死ぬから」と母親に言われて、「じゃあ死ねばいいじゃん!」と返したところ、翌日お母さんが本当に鉄道自殺してしまったというんです。でも、それに類する話はゴロゴロありますよ。
母娘関係は「白雪姫」のようなもの
信田:「いつかお母さんとわかりあえる」と信じている娘さんもいますが、残念ながら一生わかりあえることはありません。彼女たちは基本的に「自分はいい母親だ」と信じていますから、娘の側のモヤモヤを突き付けても、自分に非があるなんて思いもしないんです。ですから、ずっと娘の手を離さない。
それに、母親の中には、意識するかしないかは別として、娘に対する嫉妬がものすごくあるんですよ。娘がどんどんキャリアを積んで立派になればなるほど、「すごいわ」と感心するのではなく、「あなたは私がいないとダメなのよ」と上下関係を強調しようとするんです。
だから、「あなた、スカートの丈が短いじゃない」と何気なく注意したりする。そうすることで、娘は、かつての支配関係の中にすっと戻ってくるからです。そのやり方が、どのお母さんも舌を巻くほどうまいんです(笑)。
――どの母親も、無意識にそれをやっているんですか?
信田:そうですね。私、母と娘の関係はグリム童話の「白雪姫」のようだと思っています。原作では、白雪姫にリンゴを食べさせるのは実の母親です。「自分以上に幸せになるな」と呪いをかけるわけですね。それに白雪姫はあっさりかかってしまう。
童話では王子様の登場で呪いが解けて大団円となりますが、日本の母親の呪いは、王子と結ばれることを娘自身が「無理」と諦めてしまうよう仕向けるものなんです。決して解けることがない呪いなのです。
――ちょっと怖いですね……。母親に対してモヤモヤとしたものを抱える女性の中には、「お母さんのようになりたくない」と考えて、結婚や出産を躊躇する女性もいるのではないでしょうか。
信田:その点に関しては安心していただきたいんですが、母親から娘への連鎖はほとんどないんです。「お母さんみたいになってしまうんじゃないか」と気にしている時点で、「いい母親」なんですよ。娘を縛る母親は、そんな心配なんてしてませんから。全部「愛情よ」って信じ込んでいるんです。だから、一生懸命働いて、頑張っている娘さんが怯える必要なんてないんですよ。
「母親と友達になりたいか」を基準にする
――母親に対してモヤモヤを感じた時の対処法を教えてください。
信田:母親に対して距離をとること。具体的には、まず接触の時間と頻度を減らしてください。毎週末実家に帰ったり、一緒に買い物に行ったり、一日おきにメールしたりしているなら、全部きっぱりやめましょう。「どうして連絡しないの!?」と言われたら、「仕事が忙しい」「時間がない」と口実を作ってください。
帰省せざるをえない場合は、滞在時間をできるだけ短くする。母親との関係にモヤモヤしていると、帰ると決めた時点から憂鬱ですよね。テレビでは家族の団らんの映像しか流さないので、「帰省する気になれない私は、どこかおかしいんじゃないか」と思うかもしれません。でも、それは逆で、落ち込んでしまう方が正常ですから。
年に一回のおつとめと思って、遠方でなければ4、5時間程度で帰る、という程度に抑えておくのが現実的ですね。
母親との関係に悩んだ時は、「母親のような人と友達になりたいか」を基準にしてください。「友達になりたい」と思うなら、そのまま付き合い続ければいいし、「なりたくない」と思うなら、自分が傷つかない程度に距離をとりながら、うまく調整して付き合えばいい。
母親は、自分を産んでくれただけの、はるか年上の知人にすぎないのですから。
母の善意は、娘の憂鬱。
大切なのに、うっとおしい。
親が死ぬまで、その態度を続けられますか。
いい娘をやめて、しあわせな娘になるための実践的な方法。
母との適正距離に悩む主人公の物語を読みながら、母から受ける小さなストレスやモヤモヤをスルーする行動や考え方が身につけられます。読み終わったあと、親への執着や期待を手放せる1冊です。
(小泉ちはる)