8月17日
ストリート・オーケストラ
リオ・オリンピックも後半へと突入し開催国ブラジルもさぞ盛り上がってることでしょう。そんなブラジルで未来への希望を切り開こうとする一人の男と学生たちのお話でございます。
先日「シング・ストリート」を鑑賞しにヒューマントラストシネマ有楽町へ行き予告編でこの作品を知りました。音楽映画というだけで既に☆5個くらいつけてしまいそうになる私としては是非観たい!!!と。
ちゃっかりサービスデー狙いで見に行って参りました。
あらすじ
かつては“神童”と呼ばれたヴァイオリニストのラエルチ(ラザロ・ハーモス)だが、サンパウロ交響楽団の演奏者の最終審査でも、手が震えて演奏すらできなかった。このままでは生活に支障をきたすと思ったラエルチは、スラム街の子供たちのヴァイオリン教師に応募する。
殺伐とした街並みを抜けて学校に着くと、教室は空きスペースを金網で囲っただけで屋根もない。校長(サンドラ・コルベローニ)に促された生徒たちは楽器をギシギシとひっかき始めるが、演奏以前に座り方から教えなければならないレベルだった。帰り道、ラエルチは二人組のギャングに止められ、菓子屋の店主に「警察を呼ぶ」と怒鳴ったことを責められる。「仕切ってるのは俺らのボス、クレイトンだ」とすごまれ、ヴァイオリンを弾いてみせろと銃を突き付けられたラエルチは見事な演奏を披露し、二人を黙らせる。
翌日、あっという間に先生が脅されたという噂が広まる。ギャングの恐ろしさをよく知る子供たちは、彼らを黙らせた音楽の力に素直に驚くのだった。
基礎から叩き込まれた子供たちはめきめきと上達し、ラエルチのこれまで来た先生とは違う型破りな授業により楽しそうに旋律を奏でるようになる。彼らの姿を見て純粋に演奏を愛していた頃の自分を思い出したラエルチは、音楽への自信と情熱を取り戻していく。
そんな矢先、校長から次の演奏会で最高の演奏ができなければ、学校の存続は難しいと宣告される・・・。(HPより引用)
監督・キャスト
監督はセルジオ・マシャード。
もう~アメリカ以外の監督となるとほとんど知らない方ばかりという、浅い知識しかない私であります。ええ、調べてみましたよ。
さてどんな方かというと、セルジオというだけあってブラジル出身の監督さん。ブラジル映画の名匠ウォルター・サレス監督の下で、代筆業の女と少年が父親探しへと旅立つロードムービー「セントラルステーション」や、土地をめぐって闘争する家族間で宿命を背負った青年の葛藤を描いた「ビハインド・ザ・サン」などの助監督を経験後、幼馴染の男2人と売春婦との濃密な三角関係を描いた「Lower City」ではカンヌ国際映画祭ある視点部門で高い評価を得るなど、日本では知名度は低いものの世界的には今後期待されている監督の1人といえるでしょう。
そんな監督が主演に選んだのが「Lower City」に続きキャスティングされたラザロ・ハーモス。
この方も存じ上げない方です。ブラジルでは知らない人はいないというほど知名度の高い俳優さんだそうで。
ペネロペ・クルスが主演した作品で、夫にあいそをつかした妻が新天地での仕事と恋に邁進していくロマンチックコメディ「ウーマン・オン・トップ」で注目され、伝説のドラァグアーティストと呼ばれた男があらゆとる差別との戦いに挑む「マダム・サタン」ではカポエイラでのバトルや女装姿などで魅了したりと、現在もその演技力を変われテレビや映画などで実力を発揮しているそうです。
というわけで、失意の中訪れた学校で彼は何を教えるのか、そして絶望しかないと塞ぎこんでいる子供たちは音楽によってどう変化を遂げるのか。
それでは、鑑賞後の感想です!!!
題材がいいのに何かもったいないと思うのは私だけ?
以下、核心に触れずネタバレします。
教師と生徒、主導はどっち?
まずは率直な感想を。失意の中訪れたバイオリニストがスラム街の学校の生徒たちとクラシック音楽を通じて、お互いが絶望という暗闇の中、一筋の光を求めて奮闘し、オーケストラとして奇跡の演奏を起こす…という予想とは違い、蓋を開けてみれば特に何か乗り越えた様子のない教師と音楽に真摯に向き合うことはできても現状を打破できたわけではない生徒たち、で終わってしまっていることに少々残念な気持ちになってしまった。
とはいえスラム街特有の喧騒の中で鳴り響く、バッハやモーツァルト、パガニーニやパッヘルベルといった有名な作家たちの音楽が作中でモヤモヤしていたものを浄化していく描写は素晴らしく、
とある事件でのスリリング溢れる逃走劇からそれによって巻き起こる暴動シーンは鬼気迫るものがあり、街の人たちがどれだけギスギスした暮らしを送っているかが感じ取れるなど見応えあるものもありました。
やはり残念だと感じた1番の原因は教師のストーリーと生徒たちのストーリーで分けてしまい、2つの話が最後まとまって終わっていないというのが大きな原因かもしれません。やはり出会った以上最後はみんなで分かち合えるようなフィナーレにして欲しかったなぁというのが理想でした。
これは個人的な好みの問題でもあるのでああいう形で終わるのが筋が通ってると思う人もいるとは思いますけどね。
貧しさとは何か。
劇中では様々なスラム街の生活が描かれています。スラム街とあって街を裏で牛耳るボスが仕切っていたり、その手下たちが薬をばら撒き、銃を忍ばせ悪事を働き、結果金のない未成年たちを使ってカード詐欺までしている始末。
何か揉め事があればボスにまで耳が届き、主人公は帰路の途中で銃を突きつけられてしまうような有様。
一般家庭も仕事に苦しみ体を壊してまで働く母親もいたり、その貧しさ故土日は子供たちが手伝わなければいけないなど影響を及ぼすほどに。
演奏会まで時間がなく土曜日も練習をすると決まった時の生徒たちの反発がそれを物語っていましたし、窮屈な思いをしている生徒たちは些細なことで殴りあってしまうなど心の余裕のなさが表れるシーンもありました。
序盤での女生徒同士の痴話喧嘩がキャットファイトにまで発展した時は少々笑ってしまいましたが。
そんな窮屈な毎日に鳴り響くクラシック音楽は、そこにいる人たちにも見ている我々にも安らぎを与えるかのように感じられます。
音楽が何かを変えられることができると確信した生徒たちが練習に打ち込むようになった瞬間、貧しい生活を変えることは出来なくても心の貧しさからは解放されたのではないか、食べるものやお金に不自由でも音楽と向き合ってる時は彼らの心は精神的に満たされてるのではないだろうか、
もしかしたら貧困の連鎖ははそういうところから断ち切ることができるんじゃないだろうか。そんな彼らにとって一筋の光であるクラシック音楽をこの映画で堪能してみてはいかがでしょうか。
教師は何に突き動かされた?
生徒たちはひとつの事件から心を1つにし演奏会に向けて動き出していくわけですが、やはり主人公の教師が何によって成長したのかははっきりいってきちんと描かれていないような気がします。
冒頭緊張のあまりオーディションに落ちてしまった主人公が、スラム街の学校の生徒たちを成長させるところまではいいのだけれど、結局は自分の夢を優先してしまっているし、何をきっかけに緊張してしまうというクセが治ったのかわからない。
生徒たちが音楽に真摯に向き合う姿勢を見て感化された、というのならやはり彼らとともにやり遂げてハッピーエンドというのが1番キレイに終わる気がするんだけども。
後は、主人公が音楽によってマフィアが向けた銃を下ろさせたシーン。その噂で何か変わるかもしれないと音楽に打ち込む生徒たち、という流れならもっと劇的に描いて欲しかった。
例えにあげるのもどうかと思うが、漫画「20世紀少年」でケンヂがまさに向けられた銃に音楽で対抗する場面があるが、あれくらい極端な緊張感があっても良かったように思う。
生徒たちは実際に見てないから、その武勇伝に心動かされるというのは筋が通るが我々観衆はその内情を見せられているのでそこが弱いとイマイチのらない。
そして主人公と生徒の距離がどこで縮まったのかが抜け落ちてるようにも感じた。
もちろん事件をきっかけにだけど、そこまで積み上げてきた過程がすっぽりない、というか駆け足?だったように思えた。
とまあごたくを並べた感想になってしまいましたが、音楽演奏シーンはホント楽しいです。
特に土曜日だから楽しくやろうと提案した、輪になって指名された生徒がアドリブで演奏するゲームはテンポが上がると同時にカメラワークが躍動し、見てるこちらも楽しく感じます。そこからのクラブ音楽にスライドしていくところはうまいなぁと。
話の流れは残念と感じましたが、やはり音楽は偉大だということを教えてくれる作品だったのではないでしょうか。
というわけで以上!!あざっした!!