まず、コンペでの展示方法は、アクリルのヘルメットのようなものを「ヘッド・マウント・ディスプレイ」のようにしてかぶり、その中で匂いを嗅ぐという仕掛けをデザインしました。

展示方法のデザイン画

 以前、似たようなインターフェースを作っており、これが3つ目のデザインです。

 当時、展示会などのために滞在していたオランダで部品を購入。慣れないホームセンターで数時間、一生懸命、細部をイメージしながら、部品をそろえました。カトロルとよばれる滑車は、その文化が発達したオランダの方が品揃えがいいのです。

オランダのホームセンターで購入した部品の数々

 アクリルは以前、東急ハンズで購入していたアクリルボールを使うことにしました。しかし、口の部分がやや狭く、日本人ならいいんだけど西洋人の頭が入らない事が判明。オランダ中のアクリル会社にカッティングの問い合わせしましたが、ことごとく断られ、途方にくれました。結局、自分でノコギリ一つでやりました。けっこう大変で、泣きそうになりましたが・・・。女でも、やればできる。こうして私はどんどんたくましい女になっていくのですね(笑)。

 「何でも自分でできる自立した女になるように」と育ててくれた父親の教育のたまものです・・・。

ノコギリで西洋人の頭の大きさに合わせてアクリルをカット

 さて、拠点にしている石垣に戻り、「かねひで」という庶民のスーパーのお肉コーナーでいろいろ物色しました。家族連れの買い物客がBBQのお肉を選んでいる中で、「腐った死体をシミュレーションするのに、何の肉がふさわしいか」。そんなこと考え込んでいるあやしいヒトです。

 「やっぱり牛肉は避けた方が良いかな。バターのにおいのする体臭もあるにはあるけれど、たいてい西洋人のことをいうしね。大戦前の日本人はそもそも牛とか食べないし。牛は草食だし、ヒトは雑食。じゃあ、やっぱり豚かな。鶏と違って同じほ乳類だし。三枚肉の脂肪の層とか、ヒトの脂肪みたいに見えなくもない。やはり、鶏も入れようかな。ヒトも鶏も、雑食っていう点で共通してるし、鶏のササミなんてヒトの筋肉みたいだし・・・」

 こうして鶏肉と豚肉を2000円分購入し、アトリエで作業開始。

 まず、ガスバーナーで肉を焼いてみました。4月14日のことです。匂いをかぎつけて、辺りから猫が寄ってきます。

鶏肉をじっくり焼いていきます

 チリチリチリ、と脂肪が焼けて泡立つ音。皮が反って、くるまっていく滑らかな動き。ヒトが焼けるときもこんなふうなのだろうか・・・と思うと、なんだか気分は暗くなっていきます。ビデオも撮ったんですが、リアルすぎて公開できません・・・。

豚肉もじっくり焼きます

 これを軒先の陽の当たるところに吊り下げます。もちろんハエが入らないように、網に入れて。カラスと猫にやられない方法を考えついたのは、キャンプの経験が生きてます。原爆が落とされた季節は、真夏でしたね。石垣の陽射しはまだ夏といった感じではないですが、すでにけっこう強い。

軒先で太陽の光でじっくり腐らせます
肉の生臭さが日に日に辺りに漂っていきました

 3、4日経つと、だんだん生ゴミ臭さが出てきます。

 10日ほど経った4月24日。ここまでくるともう、辺りに酸っぱい匂いが漂います。蠅もたかります。軒先に吊るすのが限界です。これ以上やると、近所からクレームがくるでしょう。