葬儀などで僧侶に払うお布施の金額を明確にする動きが広がっている。仏教界は「宗教のビジネス化」と反発するが、薄れつつある社会との関係の再構築も迫られている。
「なんでも商売にしてもうけるのは安易な世俗主義だ。節度がなさ過ぎる」。全日本仏教会(全日仏)理事長を務める浄土真宗・本願寺派の石上智康総長は、こう憤る。
問題の発端は昨年12月、インターネット通販のアマゾンジャパン(東京・目黒)が「お坊さん便」の取り扱いを始めたことだ。法事や法要に僧侶を定額3万5000円で紹介する。お布施は宗教行為というのが仏教界の立場で、僧侶の側からは「お気持ちで結構」などと金額を明確には示さないのが一般的だ。全日仏は3月にアマゾンに取り扱い中止を求めた。
アマゾンは「コメントは控えたい」としているが今も出品は続く。お坊さん便の運営会社、みんれび(東京・新宿)によるとサービス自体は2013年から始め、問い合わせ件数は年々増加している。利用者からは「料金体系が明確で信頼できる」との声が寄せられているという。
利用が広がる背景には、菩提寺と檀家の関係が薄れていることがある。寺院経営サイト運営のオックスブラッド(東京・港)が15年に40~80歳代の男女500人に実施したネット調査で、自身が「檀家である」と答えた人は36%どまりだった。都市への人口移動も影響しているとみられるが「寄付金が頻繁」などと菩提寺への不満も目立った。
お坊さん便を通じて法要を請け負う僧侶に話を聞いてみた。都内に住む渡辺海智さん(40)は福島県にある実家の寺を兄が継ぎ、自分の寺はない。約1年前にお坊さん便に登録した。「お寺と付き合いたくはないがお経くらいは上げてほしいという人は多い。お経を上げれば感謝され、役に立っている実感はある」と話す。料金の定額表示にも「いくら出せば良いのか分からなければ利用者は不安になるだろう」と理解を示す。
みんれびの秋田将志副社長は「葬儀にお坊さんを呼べず困っている人がいて、お坊さんも檀家の減少などで困っている。われわれは両者をつないでいるだけ」と一歩も引かない構えだ。一連の対立はメディアでも報じられ反響を呼んだ。全日仏には「高額なお布施を請求された」「お布施が少ないから戒名を付けられないと言われた」と不透明さを批判する声も寄せられた。
読み込み中…