なぜベイスターズは「ビール」を作ったのか
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野球観戦に付き物な飲食物と言われて何を思い浮かべるだろうか? 個人的には幼少期のイメージから「唐揚げ」や「フライドポテト」を連想するが、やはり「売り子」の存在で思い起こされる「ビール」が多くの人の心に浮かんだはずだ。
その「野球観戦のお供」の代名詞とも言えるビールに目を付けた球団が横浜DeNAベイスターズだ。2016年の本拠地開幕戦(3月29日)から球団オリジナルビール「BAYSTARS ALE」を球場内で提供し始め、5月27日には第二弾となる「BAYSTARS LAGER」もリリースした。
ベイスターズは8月17日時点で3位、1試合平均の観客動員数もシーズン前半戦終了時点で昨年比7.7%増といずれも好調をキープしている。DeNAに親会社が変わってから5年、チームに起きた変化やビールに着目した理由について、ベイスターズのPRを務める河村 康博氏に伺った。
オリジナルビールが球場で売れない?
オリジナルビールは昨夏、すでに製品化されていた。だが、当時は横浜スタジアム場外で実施したイベント会場での販売に限り、スタジアム内では販売できなかった。理由は「横浜スタジアム」という会社が運営している球場であり、横浜DeNAベイスターズはあくまで球場を利用するだけの立場だったからだ。
球場内の広告や売店の販売収入、権利はほぼすべて横浜スタジアムに帰属しており、当然売り子による販売権も横浜スタジアムのもの。河村氏は、「同じ『ファンに喜んでもらう』という目的があっても、会社が違えば営業方針も異なる」と当時を振り返り、場内で簡単に球団の施策を打てるわけではなかった状況を語る。
球場と球団の一体運営は、ベイスターズに限らず日本のプロ野球チームにとって長年の課題。直近では北海道日本ハムファイターズの移転問題が大きな話題となっているが、これは年間13億円とも言われる球場使用料に加え、ベイスターズと同様にサービスの質の向上や収益性の向上を図りたいという狙いがあるとされる。広島カープや福岡ソフトバンクホークスなど、指定管理者、もしくは自前球場のチームが収益性を高めてチーム作りにも繋げ、好調な成績を残している状況を見れば、そのメリットは明らかだ。
そこで横浜DeNAベイスターズは昨年11月に横浜スタジアムに対する公開買い付け(TOB)を行い、今年1月に成立。買収価格は74億円にも及んだが、念願の一体運営が可能となった。ちなみに、球場使用料や広告収入などの差し引きを考慮すれば「TOBによって、連結決算では黒字化も果たせる見込み」(河村氏)とのことで、球団のブランド価値向上よりも前に収益面で大きな貢献を果たしているようだ。
選手補強にもビールが一役!?
球場との一体経営によって、自由な販売施策やボールパーク造りというメリットを手にした。飲食販売の見直しはもちろん、球場内をベイスターズカラー一色に染め上げる構想まで、夢は大きく広がる。その最初の取り組みの一つがビールというわけだ。
「ビールは、場外イベントの時からファンの方には好評でした。実際に球場内で売り始めてシーズンの半分以上が経過しましたが、売上は非常に好調です。やはりベイスターズファンが集まる場所ですから、『ベイスターズのビールを飲みたい』というニーズ、そしてここでしか販売していないというプレミアム感が大きいのだと思います」(河村氏)
ビールは4社6ブランドが販売されているが、昨年と比較した総売上額は20%の増加を記録。1試合平均の観客動員数が7.7%の増加であることを考慮しても一人あたりの販売額が上昇していることがわかる。さらに、オリジナルビールのシェアは3、4月が24.1%、5月が25.3%、ラガービールが追加された後の6月には32.4%とトップシェアを獲得するに至っている。
この好調な売上はチーム運営にも生かされており、シーズン中の新外国人選手の獲得について、「”ビール補強”とも言われましたが、実際にビールだけで大きな売上額を記録しており、否定出来ない面もあります(笑)」と河村氏は語っていた。
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夏季限定でオープンしたBAY BEER HOUSE。お土産となる「BAYSTARS LAGER BOTTLE」や、生ビールを販売しており、この日も長蛇の列ができていた |
店員さんが手に持つBAYSTARS LAGER BOTTLE(左)とBAYSTARS ALE BOTTLE(右) |
一般層をいかに巻き込めるか
ファンサービスとは一見結びつかない「ビール」の裏には、DeNA傘下になってから大切にしている想いがある。
「この十数年、サッカーの盛り上がりやエンターテイメント、レジャーの多様化によって、人々の趣味・嗜好が細分化しています。大きな流れとして、かつてのテレビ中継で繋ぎ止めていた”普通の人”を野球に呼び寄せるには難しい時代になりましたよね。
だから私たちは『お客さんに野球だけを楽しんでもらうことが全てじゃない』という気持ちでやっているんです。極端に言えば、野球は2番目の目的でも良い。野球場に来て『なんか楽しい』と思ってもらえれば良い。そういう人たちがいてもいいし、最近はそういう人たちが増えてきたからこそ、9割以上の稼働率を維持できているんだと思います。
小学校の時に、親がチャンネルを野球中継に固定して好きな番組を見られず、野球を敬遠していたという人も少なくないと思うんです(笑)。そういう人たちに野球に戻ってきてもらえるようにすることが大事なんですよね。もちろん、ベイスターズで言えば1998年の盛り上がりを、もう一度感じたいという人たちに戻ってきてもらうことも重要視しています」(河村氏)
コアな野球ファンが嫌がるライト層、いわゆる”にわかファン”は、野球の将来を考えれば、少子化に加えてサッカー人気に押されている現状を打破するために、ベイスターズのような取り組みは重要な要素となる。
球場のライフスタイルショップ「+B」では日常生活で使える野球要素を取り入れたグッズをコンセプトにした商品を販売しているが、これも「野球というスポーツのハードルを低く設定して、女性や子供に野球の雰囲気や楽しみを少しでも感じてもらう」ための戦略の一環だという。
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