昭和初期から日本の台所を担ってきた築地市場が移転しようとしています。
予定では2016年の11月17日に、豊洲新市場に移行し、現行の築地市場は解体されることになっています。
しかしながら、この移転計画には、反発する声が少なくありません。その多くは、築地で働く人たちから噴出しているものです。
先日行われた東京都都知事選においても、当選した小池都知事を含めた何名かがこの築地市場の豊洲移転問題を争点に掲げていました。
一体、何が問題なのでしょうか。
今回は、築地市場の豊洲移転問題と、どうして反対意見が出ているのか、そして、それでもなぜ進められているのか、をわかりやすく解説していきたいと思います。
なぜ移転しなければならないのか?
まず第一に、なぜ築地市場は移転しなければならないのでしょうか。
築地市場の歴史は古く、1935年に開設されました。すでに80年が経過しています。当然、施設の老朽化が進み、建物の一部が劣化して破損するなど、安全性に不安を抱えています。
また、施設の拡張ができない構造のため、スペースの確保が困難になり、商品を一時的に屋外に置かざるを得ない状況にもなっています。これでは、高度な品質の保持・衛生管理が困難です。
また、当初は列車での運送を想定して建設されたため、大型トラックの搬入スペースが不足しています。つまり、構造が時代遅れになってしまっているのです。
これらを踏まえ、東京都は2001年に豊洲への移転計画を進め始めました。
築地市場のまま改修することはできないのか?
「移転じゃなくて、改修ではだめなの?」と思う方がいるかもしれません。
確かに前述した問題点については、改修・整備・リフォームによって解決できそうな問題のように思えます。
実は東京都は、これまでにも築地市場の再整備に取り組んできました。
平成3年から再整備工事が着工され、進められて来ましたが、平成8年にこのままでは当初予定していた予算よりも多額の費用がかかってしまうこと、工期が10年以上かかることが判明し、再整備工事を中断・白紙撤回しました。この時点で、約400億円の費用が投下されていたようです。
このように、築地再整備計画は失敗したことにより、「移転した方が早い」という結論になったのです。
ちなみに、ここまでは東京都側の主張です。こういう状況だから、移転した方が良いんですよ、という説明です。
豊洲移転反対派の主張
しかし、この移転計画には、反対する人が少なくありません。特に、築地で働く業者からの反発は非常に大きいものがあります。彼らは、なぜ豊洲移転に反対しているのでしょうか。
交通・物流アクセスが悪い
豊洲新市場の構造は以下のようになっています。
青果棟(5街区)、水産仲卸売場棟(6街区)、水産卸売場棟(7街区)が、それぞれ都道484号線と環状2号線で分断されているため物流と交通のアクセスが非常に悪くなっています。
特に環状二号線で分断されている点については、青果物の水産物の移動スピードが確実に遅くなる、という指摘があります。
施設が使いにくい
仲卸業者からは、店舗が狭いという批判が出ています。
【築地移転豊洲欠陥問題】衝撃の写真を公開する。キチガイが設計したとしか思えない。 pic.twitter.com/87fy7ymqo4
— 建築エコノミスト森山 (@mori_arch_econo) 2016年8月10日
このスペースでは、マグロの調理が難しいようです。
こうなってしまった背景としては、80年前とは違って、いろいろな法律や条令が出来、手洗い場などの設置や規制が厳しくなった結果、その条件を満たすためにはこのような施設構造にしなければならなかった、という東京都の主張です。
その他にも、トラックの搬入スペースが狭すぎたり、敷地内の道路が行き来にあまりにも不便であったり、細かいところで使いにくさ、が予想されるようです。
観光施設「千客万来」の問題
東京都は、豊志新市場に併設して、「千客万来」という観光施設の建設を計画しています。
東京都の計画では、年間数百万人の観光客の来場を予定していますが、市場で働く業者からは「すごく邪魔」という意見もあります。
また、「千客万来」への物品搬入についても、大きな問題があります。
「千客万来」への搬入経路は都道484号線を導線とするため、青果棟の導入経路と競合してしまいます。「千客万来」の搬入トラックが都道484号に停滞した場合、青果棟への搬入トラックと重なって、大渋滞を引き起こす可能性があります。
この問題について、東京都は「「千客万来」の搬入経路は、青果棟の承認を得る必要がある」としています。
「青果棟」は当然、この経路は自分たちで確保したいため、認めないでしょう。それでは、「千客万来」はどこから物品を搬入すればいいのでしょうか。
この問題によって、当初決まっていた事業者であるすしざんまいの「喜代村」と「大和ハウス工業」が撤退を表明しました。すしざんまい社長の涙の撤退会見をご覧になった方もいるのではないでしょうか。*1
新しい「千客万来」の事業者は、未だに決まっていません。
豊洲の土壌汚染問題
さらに、上記問題に加えて、極めつけの大きな問題点が浮上しました。それが、豊洲の土壌汚染問題です。
豊洲新市場の予定地は、実は昔、東京ガスのガス製造工場が建っていた場所なのです。
その影響か、土壌調査をしたところ、土地の一部から、ベンゼンという発がん性物質が環境基準の43,000倍も検出されました。そのほかにも、汚染物質が続々と検出されたようです。
食品を扱う場所において、この土壌汚染問題は致命的です。新市場に反対する人たちは、移転計画の延期・撤回を強く求めました。
東京都はこの土壌汚染に対して、万全の対策をアピールしていますが、働く人や買い物客の不安を完全に拭い去るのは難しいのではないでしょうか。
(引用:東京都発表の資料より)
なぜ東京都は強引に移転計画を進めようとしたのか?
これらの問題点がありつつも、東京都はなぜ強引に移転計画を進めたがるのでしょうか。
そのキーワードは「東京オリンピック」です。
実は、東京オリンピック時に選手村と競技エリアをつなぐための主要道路として「環状二号線」という道路の建設が計画されています。
今も部分的に開通しているのですが、この環状二号線の建設計画に、築地市場の跡地が計画されているのです。
東京オリンピックが決まるまでは、市場と話し合いながら進めてきた東京都ですが、オリンピックが正式決定したとなれば、そんな悠長なことは言ってられません。
「環状二号線作るから、さっさと出て行って!」という東京都の姿勢が伺えます。
まとめ
私がこの問題に興味を持ったのは、この移転問題に反対する人たちの表情が、あまりにも鬼気迫っていたからです。必死でした。しかも、その中心は、市場で働く人たちでした。
これだけ必死になって反対するのだから、何か大きな問題をはらんでいるのだろうと思いました。調べてみたら、この記事にあるように、いろいろな問題が噴出していました。
これらの問題は、ほとんどが「市場関係者との話し合い」の不足によるものだと思います。
オリンピックという東京都にとっての最大優先事項が出来てしまったために、働く人たちとの話し合いをおろそかにし、こんなにも批判が起こる新市場になってしまった。私は今まで築地市場で働いてきた人たちのことを想うと、悲しくなります。
自分の職場が、劣悪な環境になろうとしている。自分たちの声は全然届かない。圧倒的な無力感、絶望感に襲われていると思います。
小池都知事は、近日中にこの築地移転問題の結論を出すと言われていますが、おそらく移転計画を見直す可能性はかなり低いでしょう。もうすべてが動いてしまっています。ここからまた計画を見直すのは、それこそ膨大な費用がかかります。
豊洲新市場において、今からでも改善できる部分については、東京都と市場の人たちとがよく話し合って、改善してもらえれば、と願っています。
参考サイト・記事
築地移転豊洲欠陥問題の夏(2016年8月11日) - Togetterまとめ
*1:「喜代村」の撤退理由については、敷地内に温浴施設を作る予定だったのに、東京都がお台場の「大江戸温泉物語」と2021年まで契約更新をしたことであるとも言われています