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海外のCG現場は日本と何がちがうのか?〜海外就労経験アーティスト座談会〜

海外のCG現場は日本と何がちがうのか?〜海外就労経験アーティスト座談会〜

毎年CGWORLD7月発売号で年次企画として実施している「CGWORLD白書」でおなじみのアーティスト座談会。今回は、海外プロダクションでの就労経験を経て帰国後も活躍されているお三方に、海外と日本での働き方のちがいやご自身の環境による働き方の変化などを語っていただきました。


※本記事は月刊「CGWORLD + digital video」vol. 216(2016年8月号)からの転載となります

構成_ks
EDIT_小村仁美 / Hitomi Komura、山田桃子 / Momoko Yamada
PHOTO_弘田 充 / Mitsuru Hirota

ロケーション協力_Creative Lounge MOV
東京都渋谷区渋谷2-21-1
渋谷ヒカリエ8 階 8/(ハチ)
www.shibuyamov.com

CGを始めてから現在までのキャリア

CGW:さっそくですが、これまでのキャリアをお伺いします。

米岡:僕が最初にCGに触れる機会があったのは、大学時代の「メディアアート」の授業のときです。そこで初めてCGというものを見て、やってみたいなと。卒業してからは笹原組(※1)に参加して、アニマアニマロイドデジタル・メディア・ラボオムニバス・ジャパンオキシボットと、基本的にはフリーランスとして様々な会社に携わりました。それから2011年に海外に渡って、ドイツのPIXOMONDO、カナダのScanlineVFXで勤務し、一昨年の7月に日本に戻ってきて、エフェクト専門の会社「ステルスワークス」を起ち上げました。基本的にはずっとエフェクトでやってきています。

※ 1:笹原組
現・ILCA所属の笹原和也氏が1997年に起ち上げたCGプロダクション。その後2002年に株式会社アニマに名称変更され現在にいたる

  • 米岡 馨(よねおか けい)
    アニマ、アニマロイド、デジタル・メディア・ラボ、オムニバス・ジャパン、オキシボット等の日本国内のプロダクションを数社経た後PIXOMONDO のベルリン支社、ScanlineVFX のバンクーバー支社と海外でハリウッド作品のエフェクトを数多く手がける。帰国後の現在は、自身が起ち上げたエフェクト専門会社ステルスワークスの代表を務める
    Twitter:@Keiyoneoka
    vimeo.com/100568414

菊地:CGを始めたのは97年か98年頃ですね。高卒で、小さなTV番組のCGを請け負う会社で1年半くらい働いて、その後ちゃんと勉強をしたいと思ってカナダの大学へ留学しました。で、4年間勉強して卒業後、スクウェア(現スクウェア・エニックス)のヴィジュアル・ワークスに4年半在籍しました。それからBlizzard Entertainment(以下、Blizzard)に6年間、日本に戻ってマーザ・アニメーションプラネット、その後ILMWeta Digital、という感じです。今は国内でフリーランスでやっています。エフェクトがメインですが、パイプラインやレンダリングまわりのテクニカル・ディレクター(TD)的な働き方もしています。

  • 菊地 蓮(きくち れん)
    カナダ・オンタリオ州のシェリダンカレッジを卒業後、日本のゲーム会社のムービー部門での勤務を経て、米Blizzard Entertainment のCinematics Division にて数々のゲームムービーの制作に携わる。その後は日本のマーザ・アニメーションプラネット、米サンフランシスコのIndustrial Light & Magic、ニュージーランドのWeta Digital にてSenior Effects Technical Director として大規模映画のVFX やフルCG 映画に参加。主にHoudini を使用してのショットデベロップメントおよびエフェクトアセット作成に携わる。現在はフリーランスのエフェクトアーティスト、およびテクニカルコンサルタントとして活動中

鈴木:僕は大学と並行してCGの専門学校に通ってMayaを習得し、大学卒業後にスクウェアに入りました。もともと海外志向があったので、ちょうど『ファイナルファンタジーXIII』が終わったところでタイミング良くBlizzardへ。で、ビザ更新のタイミングと子どものこともあって帰国し、今は株式会社フォトン・アーツのスーパーバイザーとフリーランスの2足のわらじでやらせていただいています。

  • 鈴木卓矢(すずき たくや)
    1980 年生まれ。大学卒業後、スクウェア ヴィジュアル・ワークスに入社。その後、アメリカに渡りBlizzard Entertainment のCinematics Division にてシニアアーティストとして背景のデザインからモデリングまでを担当。2014 年に活動の場を日本に移し、現在は都内のCG 制作会社PhotonArts にてエンヴァイロメント&プロップスの モデリングスーパーバイザーとして勤務。自身のさらなるスキルアップのためにフリーランス の背景モデラーとしても実写、フルCG、アニメなど幅広く活動中
    photonarts.co.jp

CGW:米岡さんは一昨年に帰国されて、ステルスワークスを起ち上げられたのはいつ頃でしたか?

米岡:2015年の6月9日ですね。ちょうど1周年になります。

菊地:おめでとうございます!

米岡:ありがとうございます。去年は子どもも生まれ、会社も起ち上げといろいろ大変でしたが、充実した日々を送らせていただいています。

鈴木:菊地さんはTD的な動きもされるとのことでしたが、米岡さんはTDのくくりになるんですか?

米岡:一応TDではありますが、アーティスト業も多いです。菊地さんみたいにプログラムに強いわけではないですね。

鈴木:じゃあ、菊地さんと米岡さんは同じエフェクトでもちょっとフィールドがちがってくるわけですね。

菊地:そうですね。あとはソフトもちがいます。米岡さんは3ds Maxですが、僕はHoudiniです。

海外を目指したきっかけ

CGW:海外で働くことを志したきっかけをお聞かせください。

鈴木:そもそも初めてCGというものを意識したのがハリウッド映画だったんですね。なので、そういう作品を作りたければハリウッドに行くしかない! という思いからでした。スクウェアに就職したときも、できればホノルルスタジオ(※2)に行きたかった。国内 の会社で最も海外に近い現場だと思ったので。

※ 2:ホノルルスタジオ
スクウェアUSA ホノルルスタジオ。1997年~ 2002年まで、映画『ファイナルファンタジー』(2001)の制作を主な目的としてハワイ・ホノルルに構えられていたスクウェアの拠点。出身者には現在も第一線で活躍するクリエイターが多い

菊地:まったく同じパターンですね(笑)。カナダの大学にいた当時はアメリカの会社に就職したかったのですが、カナダ人の同級生たちはどんどん就職先を決めていくのに、自分はアメリカのビザがないためなかなか見つからない。で、日本に戻るにしても最も海外に近そうなヴィジュアル・ワークスを目指しました。

米岡:実写の映画案件に参加したとき、まさに寝る間もないようなハードさだったんです。そこまで追い込んでやっているのに、クオリティは一向に上がらない。ついつい海外の作品と比べては、海外はなぜこんなにクオリティが高いの? と疑問に思っていました。それを知るにはもう向こうで働くしかないなと考えて、3年くらいかけて英語を勉強しました。その後SIGGRAPHに出かけてPIXOMONDOの求人ブースに応募しました。運よく引っかかったものの、そのときはインタビュー(面接)で落とされてしまって。ただそれから1~2年経って、今度は向こうからお声がかかって、行くことに決まったんです。

鈴木:米岡さんはどの段階でエフェクトに絞ったんですか?

米岡:以前はゼネラリストだったんですが、SIGGRAPHで当時CafeFXでマットペインターをされていた佐々木 稔さん(※3)にリールを観てもらう機会があって。そのときに、エフェクトを観た佐々木さんが「米岡さん、エフェクト1本に絞った方がいいんじゃないの?」って。

※ 3:佐々木 稔さん
Digital Domain 3.0 のデジタル・エンヴァイロメント・リード

菊地:それは、エフェクトだけ突出していたということですか?

米岡:いえ、自分の中ではモデリングもエフェクトも同じくらいの水準だと思っていたんですが。先日ふと思い出してそのことを佐々木さんに聞いてみたら「エフェクトは楽しんで作っているのがわかる」とのことでした。一方でゼネラリスト時代の経験が活きることも多々あって。背景もやっていたというのが特に効いていますね。

鈴木:なるほど、「破壊といえば米岡さん」という印象がありますが、確かに破壊エフェクトは背景との絡みが重要ですからね。

米岡:建物のアセットといえばこうあるべき、というのを把握できているので、大きめの破壊案件が来たときに「こういう作り方でやってください」という指示を出しやすい。そうすると、4社、5社と外注さんに出していても、上がってくるものの構造が同じになるので、こちらは1つのアセットでどんな建物でも破壊できる。いろいろな人がいろいろな作り方で上げてきたら、それぞれにチューニングして処理しないといけないですからね。

鈴木:僕は『スター・ウォーズ エピソード1/ファントム・メナス』を観たときから「背景でいこう!」と決めていました。キャラクターモデリングは競争率も高いしダメだなと思って、となるとマットペイントか背景アセットになるんですが、マットペイントとなると相当絵が描けないといけないですからね。

菊地:僕は、もともと映画学科の撮影専攻でした。照明やフィルムを学んでいて、いずれはセットで働きたいな、と思いつつCGの勉強もしていたところ、CGをやっているクラスメイトが「エフェクトが一番金になる!」と。「人が足りないし、単価が高くて、ハリウッドでやるならエフェクトだ!」と言っていたんです。それからエフェクトを意識し出したんですが、教えてくれる人が周囲に多かったし、なんだか肌に合ったんですよね。ド文系なんで逆にスクリプトとかできると楽しくなっちゃって(笑)。そういう意味では、自分には「オレがすごいショットを作るんだ!」みたいな欲はないかもしれません。Blizzardでもパイプライン周りを担当していたんですが、要はパッケージとしてお膳立てして、上手く回って最終的に良いものができたらいいなと。

米岡:確かに、「すごいものを出さなきゃ」という感覚もありますが、会社を作って考え方が変わったかもしれないですね。今はステルスワークスから「米岡」というイメージを薄めさせたい、と思っています。組織として良いものを出せていれば、必ずしも常に自分が前に立つ必要もないんじゃないかって。最近はリードに近いスタッフにもフロントに立ってもらっています。

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環境と年齢がもたらす
働き方の変化

Profileプロフィール

菊池 蓮/Ren Kikuchi<br />米岡 馨/Kei Yoneoka<br />鈴木卓矢/Takuya Suzuki

菊池 蓮/Ren Kikuchi
米岡 馨/Kei Yoneoka
鈴木卓矢/Takuya Suzuki

(左)菊池 蓮/Ren Kikuchi
(中)米岡 馨/Kei Yoneoka
(右)鈴木卓矢/Takuya Suzuki

スペシャルインタビュー