小島ファッションマーケティング代表

オムニチャネル戦争の次なる局面とは?

 8月12日の日経MJのコラム「危機のアパレル」では百貨店アパレルの原価率を20%、SPAの原価率を40~50%と乱暴にまとめていたが、業界の実態を知る者から見ればその認識は相当にズレている。

 百貨店アパレルの原価率は90年代初期までは33%が標準とされたが、バブル崩壊で売上が急落するのを利幅でカバーせんとした百貨店が毎年のように歩率を嵩上げしたため、アパレル側としても利幅を確保すべく同率に原価率を切り下げ、90年代末には25%程度まで切り詰められてしまった。この原価率切り詰めのせいでアパレル生産地の中国シフトが急進したのは紛れも無い事実であり、百貨店が国内産地崩壊の引金を引いた元凶であった事は疑う余地もない。

 SPAの原価率も90年代末までは確かに38~48%と高かったが、00年の定期借家契約導入と大店立地法施行以来、多店化とともに運営コストと値引きロスが肥大し、今日の標準は自社開発で28~33%、商社OEMで30~35%、ODMでも33~38%と格段に切り詰められてしまった。中には商社OEMで20%を切るSPAチェーンもあって、タイムセールを乱発して周囲に値崩れを拡げている。

 何せ今世紀に入って15年でほぼ10ポイントも原価率が切り下げられたのだから消費者が受ける'お値打ち感'も応分に貧相になり、それがまた値崩れを招いて、利益確保のためにさらに原価率を切り下げるという悪循環に陥っている。かつてない'衣冷え'の要因はそんなギョーカイの自業自得に在る事は疑う余地もなく、運営経費率も値引きロス率も格段に低いECにギョーカイが流れるのも必然であろう。

 とは言え、消費者はECによる利便は得ても'お値打ち感'は店頭と同じままで、ECの低コストという恩恵には未だ浴していない。ここが怖いところで、ギョーカイにとっては救世主のECも店頭との一物一価にこだわり続ければ店頭同様の'衣冷え'に陥るのは時間の問題ではないか。高コスト高ロスな店頭販売を前提とせず、EC軸のファクトリーダイレクトで原価率45~55%という'お値打ち価格'を訴求するFDORの台頭を直視するなら、もはや店頭とECが同一商品・同一価格というギョーカイ都合のロジック崩壊は時間の問題だと思う。消費者にもECの低コスト低ロスの恩恵に浴する権利は当然に在る。それがオムニチャネル戦争の次なる局面ではないか。

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