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174 幕間、クロードとグレイン
グレインがクロードを攫った時の話です。短編的な。
「さて、どうしたもんかな」
ボリボリと頭を掻きながら、洞窟の隅で立っている灰髪の男の名はグレイン。
元派遣魔導師である。
足元にはすぅすぅと寝息を立てる少女、クロード。
共に監獄島を抜け出し、ゼフとの戦いで今は死んでしまったケイン、その妹だ。
ゼフにより海へと吹き飛ばされ、何とか這い上がってきたグレインはアゼリアたちの気配を感じた。
その索敵にひっかからぬよう、岩陰に潜んでいると、フラフラと歩いてくるクロードの姿が見えたのである。そこを捕らえたのだ。
(こいつは使えるな)
ゼフの仲間であり、ケインの妹でもあるクロード。何かと使えそうなコマである。
グレインは気絶したクロードを洞窟へ連れ込み、緊縛した後に狂化の魔導ベルセルムをかけ、しっかりと催眠を施した。
ベルセルムからの催眠術のコンボ。
以前、人買いに聞いた術だ。
猿ぐつわをしなければ舌を噛みそうなほど暴れていたクロードだったが、すぐにとろんとした目に変わり眠りに落ちてしまった。
これで目が覚めた時はその思考は子供の様に退行し、訳も分からなくなっており、簡単に手なずけることが出来るという寸法である。
手間も時間もかかるが、中々便利な術だ。
そういえばケインの奴、妙にこのガキに入れ込んでいたが、中々どうして、確かに嗜虐心をそそられる。
縛られているクロードが涙目で暴れる姿などは、かなりキていた。滅茶苦茶にしてやりたい衝動を抑えるのを、必死で抑えたものだ。
「まぁベルセルムからの催眠は精神への負担が大きい。ちょっとした衝撃で壊れちまうから、めんどくせぇんだがな」
本当なら今すぐにでもそうしてやりたい所だが、壊れてしまっては元も子もない。
こいつには、役に立ってもらわなければならない。
グレインは両手を頭の後ろで組んで目を閉じ、クロードが目覚めるのをただ待った。
「こ、ここは……? ボクは……いったい……」
眠っていたグレインは、クロードの声で目を覚ます。
大分狼狽しているようで、暗闇の中を歩こうとして地面に躓いて、すっ転んでいる。
うぅ、と小さく呻き声を上げながら、尻をさするクロードを見てグレインは湧き上がる嗜虐心を抑えつつ、優しく声をかけた。
「よぉ、お目覚めか?」
「ここは……あなたは……?」
やはり俺の事は覚えていない様だ。
記憶を退行させたからな、だが記憶はなくとも警戒されないに越したことはない。
「俺はグレイン、おめぇの兄貴から面倒を見てくれと言われてな……」
「ボクの……?」
「ケイン=レオンハルト、だろ? レオンハルト家の長男。俺のダチなんだよ」
「兄様の友……っ……ぁ……たま……が……っ」
頭を押さえ、うずくまるクロードを見てグレインはチッと舌打ちをする。
面倒な奴だ。
だがこいつは、役に立つ。今は演技でも、味方と思わせておくに越したことはない。
そう思いグレインは口角を歪めながらも、クロードの肩をぽんと叩いた。
「……安心しろクロード、アイツからお前の事を守ってやれ、と頼まれてるんだ。俺が守ってやるよ」
「グレイン……さん……」
そう言ってグレインは漏れそうになる笑いを必死で堪えながら、精一杯優しげな表情を作る。
それを見て、明らかにグレインを恐れていたクロードの目から、恐れの色がほんの少しだけ、薄れた。
「とりあえず、服を買いにいかねーとな」
「ふく……ですか?」
「あぁ、可愛いのを買ってやるよ」
「でも……」
「気にすんな、カネはケインから貰ってる」
「えと……はい……」
戸惑うクロードにフードを被せ、自分もフードを被り街へと歩き出す。
ゼフをおびき寄せる為のエサ、エサは上手く飾り、躍らせる事でその真価を発揮するとグレインは考える。
男のような服、格好、そして鎧を着たクロード。
クロード=レオンハルトか。
素材は悪くないが、こんな男みてぇな服じゃあのクソガキは、油断しないだろう。
街には人通りは多い。捜索の魔導は広範囲だが狭い範囲を探すのは苦手だ。これだけの人混みであれば見つかる事はないだろう。
街の中、高級そうな店に入り、店員を一人掴まえてクロードを渡す。
「こいつを着飾ってやれ、うんと可愛らしく、な」
「かしこまりました」
頭をぺこりと下げ、クロードとたくさんの服を持って行く店員を見送るグレイン。
椅子に座って頬杖をつき、グレインをここまで貶めた原因であるゼフ、そしてアゼリアを殺す為の計画を練り始める。
(とりあえずクロードにゼフを一人で呼び出させ……っとダメか、アゼリアがあの辺をうろついてやがるし、あいつを殺っとかねえと嗅ぎつけられる可能性が高い、そうなったらもう計画は破綻だ。話にならねぇ……しかしあの女は不意打ちでもしんどいぜ。殺気への反応がはんぱねぇし……)
ぶつぶつと考えながら、時間は過ぎる。
大まかな計画が概要を帯び始めた頃、
「おまたせしました」
クロードを引き連れ、店員が帰ってきた。
遅い――――そう言おうと顔を上げたグレインの声が止まる。
グレインの目に映ったのは、まるで見違えたようなクロードの姿。
黒いドレスに身を包んだクロードは、何とも艶やかで、数々の女を見てきたグレインですら、その姿にくぎ付けになってしまった。
「――――どう、ですか?」
「お、おう……いいんじゃあねえか?」
「ホントですかっ!?」
そう言って、花のような笑顔を咲かせるクロードに、グレインはゴクリと息を飲む。
これは、予想以上に拾いものかもしれねぇな。
くく、と笑い顔を見せぬように顔を背け、店員に金を支払い店を出る。
流石にあの服で帰るわけにはいかない。目立ちすぎるからな。
またフードを深くかぶらせ、グレインはクロードの手を掴み街の外へと歩いていく。
「あの……ありがとうございます、グレインさん……」
「気にすんな、俺の為にやった事だからよ……クク」
「おれの……ため……?」
「気にすんな」
そう言って不思議そうにきょとんと顔を傾けるクロードの頭を、ぽんと叩く。
(そう、全て俺の為だ)
お前を餌にしてゼフを釣り、その仲間を殺していく。
ゼフの仲間、全員殺し終えたその後はクロード、お前を……。
「ふ……くく……はーっはっはっは!!」
「……へんな、グレインさん」
大笑いするグレインの少し後ろを、クロードはついていくのであった。
とりあえず一か月は休もうと思っていたのですが、何か書きたくなってしまったので書いてしまいました。
再開は今書いているワールドイーターのケリがつく、25日を予定しています
よろしければそれまで、どうぞ見ていただければと~
http://ncode.syosetu.com/n2171cf/

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