欄干のない橋…「危ないの言葉が助かる」
視覚障害者団体が調査へ 東京メトロ、社員に「声がけを」
東京メトロ銀座線の青山一丁目駅(東京都港区)で、盲導犬と歩いていた目の不自由な男性がホームから転落し電車にはねられ死亡した事故の衝撃が広がっている。駅のホームは視覚障害者から「欄干のない橋」と危険視されており、障害者団体は当時の状況などを独自に調査することを決定、メトロは再発防止のため「積極的に声がけすること」を社員に指示した。事故防止にはホームドアが有効だが未設置の駅も多く、視覚障害者は乗客ら周囲の助けの必要性を訴える。
警視庁赤坂署や東京メトロによると、死亡した世田谷区の会社員、品田(しなだ)直人さん(55)は15日午後5時45分ごろ、同駅渋谷行きホームから転落、入ってきた電車にはねられた。同駅近くの会社に勤務しており、帰宅途中に事故に遭ったとみられる。ホームに点字ブロックはあったが、ホームドアはなかった。
品田さんは今春まで北海道で暮らしていた。一緒にいたラブラドルレトリバー「ワッフル号」(メス、4歳)を訓練した北海道盲導犬協会によると、ワッフル号は品田さんにとって2頭目の盲導犬で、協会が約7カ月間訓練した後、2014年5月末に貸与した。品田さんが東京に転居したため、指導員が自宅周辺や通勤路の危険箇所を一緒にチェックしていたという。
協会の和田孝文訓練所長(50)によると、ホームを歩行する際は「利用者がホーム側を歩き、犬は線路側に」と指導していた。防犯カメラ映像には、指導とは逆に品田さんが線路側を歩く姿が映っていた。理由は不明だが、和田所長は「地下鉄の駅は音が反響しやすいうえ、多くの人が行き交う。方向感覚を失った可能性がある」と推測する。
視覚障害者団体も事故を重く受け止める。日本盲人会連合(61団体加盟)の竹下義樹会長は「盲導犬を連れていたのに転落したケースはまれ。ショックだ」と話す。
同連合が2011年にアンケートしたところ、回答した252人の37%(92人)がホームから「転落したことがある」と答え、「転落しそうになった」という人は60%(151人)に上った。理由(複数回答)は「方向が分からなかった」(80人)▽「点字ブロックが分からなかった」(56人)−−などだった。どうしたら転落を防止できるか聞いたところ、「ホームドアの設置」を求めた人が228人(複数回答)で最も多かった。同連合は「利用者、盲導犬、駅施設のどこに問題があったのか。全国の盲導犬利用者のためにも調査する必要がある」として、メトロの協力を得て事故状況を調査する方針だ。
一方、メトロは点字ブロックやホームドアの整備を進めているが、ホームドアは重みがあり、ホームに強度がない場合は駅の改修工事が必要になる。9路線中4路線で整備を終えたが、銀座線の完全設置は2021年度になる見通しだ。
メトロでは身体障害者や高齢者をサポートする「サービス介助士」の資格取得を推奨しているが、視覚障害者に対応した教育や訓練は実施してこなかった。事故を受け、同社は「視覚障害者には積極的に声がけをすること」などとする通知を関係部署に出した。
今回の事故は盲導犬の使用者にも衝撃を与えた。駅のホームから転落した経験がある千葉県松戸市の公務員、松井進さん(45)は「ホームは欄干のない橋と言われるほど危険度が高い。命に直結する問題なのでホームドアの普及を進めて」と訴え、「視覚障害者が線路に近付くのを見たら積極的に声をかけてほしい。ちょと肩や腕に触れて、危ないですよと言ってくれたら助かる」と話す。【高橋昌紀、福島祥、春増翔太】