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2年前の衆院選、そして先月の参院選と、自民党の公約に耳なれない政策が盛…
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2年前の衆院選、そして先月の参院選と、自民党の公約に耳なれない政策が盛りこまれた。「訟務機能の強化」である。
国がかかわる裁判で国の言い分を主張するのが訟務の主な仕事で、法務省がその役を担う。
機能強化の一環として昨年から力を入れているのが、各省庁から法的な問題について事前に相談をうけ、トラブルの回避と軽減をめざす「予防司法」だ。これまでに330件を超す協議が行われたという。
意義あるとり組みではあるが、事業を進めるときなどに法務部門に意見を求めるのは、民間企業では当たり前の話だ。立ちおくれの感は否めない。
実際、残念な例があった。
国際司法裁判所が2年前に日本の調査捕鯨を違法とする判決を出したにもかかわらず、政府は昨冬、捕鯨を再開した。自国の都合を優先する態度は批判を浴び、南シナ海問題で国際機関の判断に従わない中国を日本は批判できるのか、という声になってはね返っている。
訟務部門に相談があれば「出港不可」の回答になったとの見方がもっぱらだ。目の前の利害やしがらみにとらわれがちな担当部署と、一定の距離をおく専門家集団が上手に連携してはじめて、全体は機能する。国のコンプライアンス不全を指摘されても仕方ない出来事だった。
捕鯨問題に限らない。大切なのは、その対応は国民のためになるか、真に国の利益につながるかという視点からの、冷静で多面的な検討である。
政府に間違いはないという考えにしばられ、裁判でもかたくなに争い、救済を遅らせ、被害を広げる。そんな過去をこの国の行政はもっている。
「訟務機能の強化」がめざすべきは、役所に都合のいい理屈を築きあげることでも、勝訴を重ねることでもない。はびこる組織の論理と独善的な姿勢を排し、行政内部に法の支配を広く行きわたらせることだ。
訟務部門には裁判官からの異動組が多い。国の代理人を務めるうちに色に染まり、裁判官に戻って行政寄りの判断をするのではとの懸念が以前からある。
人事のあり方は引き続き検討するとして、現に訟務にあたる担当者は、中立・公正を旨とする司法の世界で培ってきた見識をふまえ、内部から行政をチェックし、是正することに力を注いでもらいたい。
「勝つべき事件には勝ち、負けるべき事件には負けるべきところで正しく負ける」
4年前から法務省自身がかかげている政策目標である。
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