訴訟参加者も3500人に

 もちろん、現行の制度に強く反発する声も根強い。

 韓国電力公社が累進性電力料金制度によって「不当な利益」を上げているとして、利用者が「電力料金の返還」を求めて訴訟を準備している。韓国メディアによると、最近になって訴訟参加の申請が急増し、8月8日現在で3500人に達した。

 利用者を刺激しているのは、韓国電力が空前の利益を上げていることだ。

 韓国電力は2015年に11兆3000億ウォンもの営業利益を上げた。2016年1-6月期も6兆3000億ウォンに達した。4-6月期の売上高営業利益率は20.4%に達した。これはサムスン電子の16.2%すら上回る水準だ。

 政治家も加勢している。一部野党議員は累進性を現行の最大11.7倍から2倍に圧縮する法案の提出を準備している。

 即時緩和を政府に求める声も相次いでいる。

 これに対して政府は、8月11日午前までは、「累進性を緩和すると電力需要が急増する恐れがある。さらに、累進性の緩和は実質的に金持ちに対する減税と同じような"持てる者優遇措置"になりかねない。韓国電力の家庭用電力料金は 原価以下の水準でもある」と説明して、料金制度は変えられないと頑強に主張してきた。

 しかし、この日、朴槿恵(パク・クネ=1952年生)大統領が、自らの側近で新たに就任した与党・セヌリ党代表らと昼食会を開いたのを機に、情勢が一変した。

 セヌリ党代表が、電力料金の改定に言及するや、すぐに大統領が「異常な高気温で国民が苦労している。(中略)与党ときちんと協議してまもなく良い案を発表することになる」と述べたのだ。

 これを受けて夕方、政府と与党の協議を受けて、緊急対策が出た。

 7-9月に限って、累進性の基準を50kWhずつ「おまけ」するという内容だ。

 政府の試算では、平均20%近くの値下げ効果があるという。

 しかし、6段階の累進性は維持した ままだ。韓国メディアの試算では、例えば、4人家族の家庭でエアコンを1日8時間使用した場合、電力料金が月35万ウォンから4万ウォン弱下がるだけで、効果は限定的だ。

 これまで夜にエアコンを付けっぱなしにした生活をした経験があまりない多くの利用者は、「8月の電気代は一体いくらになるのか?」と気をもんでいる。

 といって、この猛暑ではエアコンなしではとても眠れない。

 インターネットでは「9月25日が政権の最大の危機」という書き込みまであった。

 この日が、8月の電力料金の請求書の発送日だからだ。

 2016年の韓国は、うなりを上げるエアコンを恨めしげに見ながらすごす夜だ。