韓国が米国製ミサイル迎撃システムの配備を決定したことに中国が反発するなか、中国で韓国大衆文化の人気が冷え込む事態になるのではないかという不安が韓国で高まっている。
韓国ではここ数週間、アジア全域で韓流として知られる大衆文化の輸出をめぐる懸念が広がっている。
韓国のテレビドラマ、音楽、映画の最大の輸出先である中国で、韓国の俳優や歌手が「やむを得ない事情により」イベントを中止する事例が相次いでいる。この動きを受けて、韓国の大手芸能会社の株価が急落している。
「中国政府から韓国との文化的交流を止めろという指示が出ているわけではないが、省政府や民間企業が政府の意向をくもうとしており、韓国の文化輸出が中国で壁にぶつかる兆候が表れている」と、韓国放送通信委員会のキム・ジェホン副委員長は言う。
韓国政府が先月、中国の強硬な反対を受けながらも地上配備型ミサイル迎撃システム（ＴＨＡＡＤ）の配備を決定した後、中国の国営メディアは、中国政府が経済的な報復に出る可能性を警告し続けている。
「韓国がＴＨＡＡＤ配備計画を進め、２国間の政治的緊張をさらに高めるなら、中国で韓流が冷え込むのは確実だ」。中国共産党機関紙「人民日報」系の「環球時報」は先週こう書いた。「その時点で、韓国ドラマを放送するテレビ局は中国市民に拒絶されるので、公式な命令などはまったく必要ない」
８月初旬、ドラマ「むやみに切なく」の主演俳優キム・ウビンとペ・スジは、中国でのイベントを土壇場で延期せざるを得なくなった。また、韓国の人気バンド２組が中国でのテレビ番組出演とイベント参加を取りやめた。
韓国芸能プロダクションのＹＧエンターテインメント、ＳＭエンターテインメント、ＪＹＰエンターテインメントの株価は、この１カ月で15％超下落し、娯楽制作最大手のＣＪ Ｅ＆Ｍは時価総額が8.6％減少した。
■中国、韓国事業者の営業許可取り消しも
旅行会社もＴＨＡＡＤ配備に伴う悪影響を懸念している。中国は最近、韓国人に対する商用査証（ビザ）の発給を厳しくし、韓国人を専門に扱うビザ申請代行業者の営業許可を取り消した。
中国の青島市政府は先月、「外交上の状況からみて時期的に不適切」であるとして韓国食品見本市への参加を取りやめた。
中国社会科学院の北東アジア専門家、王俊生氏はこう話す。「韓流の根底には中国社会の韓国に対する好意的態度がある。ＴＨＡＡＤの配備は、その好感の基盤を壊してしまう」
By Song Jung-a
（2016年８月９日付 英フィナンシャル・タイムズ紙）
(c) The Financial Times Limited 2016. All Rights Reserved. The Nikkei Inc. is solely responsible for providing this translated content and The Financial Times Limited does not accept any liability for the accuracy or quality of the translation.