『Jagat(ワル)』はとてもパワフルな作品でした。舞台は1991年に設定され、タイプーサムの日から物語が始まります。12歳のアッポイ少年が主人公なのですが、勉強をしていてもタイプーサムの行列や、あるいはテレビから流れるラジニカーントの映画に気を取られてしまうアッポイは、学校では九九もできない落ちこぼれとみなされています。工場労働者であるアッポイの父は、これからは教育がすべてだとアッポイに厳しく接し、時には体罰も与えます。アッポイは頭もよく、想像力豊かな少年なのに、それを認めてもらえず、逃げ道として父の弟バーラーに傾倒することに。バーラーはギャングとつるんだりしているものの、アッポイを一人前に扱ってかわいがってくれていたのですが、やがてギャングの抗争が激しくなっていき、それに巻き込まれて行きます....。
舞台が1990年代に設定されたのは、ちょうどその頃、プランテーションでの労働に従事していたインド人たちが解雇されて町へと移動して来、スラム街に住み着くようになった時期だから、とのことです。その閉塞感漂う状況の中で、才能を持っていながら勉強ができないばかりに「落ちこぼれ」のレッテルを貼られる少年と、その息子に望みを託すしかない父親、履け口をギャングという存在に求める叔父やその仲間たちが描かれていきます。悪い方に転がっていく、見ていてつらい映画でしたが、力を感じさせてくれる作品ではありました。ただ、暴力シーンがふりをしてるだけ、というのがまるわかりだったり、音楽が印象的であるもののあまりにもかぶせ過ぎだったりと、残念な点も。ほとんどのセリフがタミル語(一部、華語と英語もあり)のマレーシア映画、という存在意義は大きいので、次回作に期待しましょう。
実はこの日の上映はあまり映写条件がよくなく、スクリーンが小さくてシネスコ画面ではいっそう映像が小さくなってしまっていました。腰が痛いので床には座らず、一番後ろに腰掛けていた私には字幕が小さくて読みづらかったので、内容をきちんとf理解できたとは言いがたいところがあります。上映が終わってのQ&Aも、MCの人は声がよく通って聞こえたものの、サンジャイ監督やプロデューサーのシヴァさんの声は、マイクがなかったためほとんど聞こえなかったのでした。帰途、MCをやったアランさんという人(上写真右端)と列車が一緒になり、待つ間ちょっと話したのですが、「僕はMCをいつもやってるから声もよく出るけど、彼らはとても控えめに話していたからねー」とのことでした。でも、質問が次々に出ていて、終了後も一緒に写真を、という人が引きも切らず。下は、左から作曲を担当したカマル・サブラン(Kamal Sabran)さん、前回の記事で名前を挙げたジャスティンさん、そしてシヴァさんとサンジャイ監督です。作曲家のカマルさんは、顔がよくわかる写真も付けておきます。
この場のムードメーカーはオーキッドさんで、その日の朝に作ったというクレープのようなパンとゆで卵のサンバル(魚で味付けされた、マレー世界に入ったサンバルですね)をみんなに振る舞い、求めに応じてポースを取ったりして、誰とでも気さくに接していました。ヤスミン記念館がいろんな活動をしていけるのも、オーキッドさんのキャラに負うところ大なのでは、と思います。
私は少し早めに失礼して、ジャヴィアンさんに教えてもらったヤスミン作品ゆかりのスポットめぐりをすることに。記念館から外に出たら、受付のテーブルに寝そべっていた猫ちゃんがお見送りしてくれました。え、お見送りなんて顔してないって? マレーシアでも猫は気まぐれなんですよー。
記念館のあたりは前回書いたようにトレンディなスポットということからか、新婚さんが記念写真を撮る絶好の場ともなっているようです。花婿さんはサングラス姿でしたが、これもグラサン姿の方がカッコいいから? インド映画講座の時に言ったのですが、ボリウッドスターのブロマイドはなぜかグラサン姿が多く、ブロマイド屋のおじさんに文句を言ったら、「えー、何が悪いんだい? カッコいいじゃないか」と反論されたのです。南国の人はグラサン好きなのでしょうか。『Jagat』の影響か、ギャングスターに見えてしまうんですが...。花嫁さんは、モデルさんかと思うぐらいの美女でした。
では、ジャヴィアンさんが書いてくれたスポットと登場した作品、そしてその写真を。
①Masjid Negeri(州のモスク)~『ムアラフ』、『タレンタイム』
前回も写真を載せましたが、今回は夕方の写真をどうぞ。『タレンタイム』でハーフィズ君が祈っていたモスクですね。
②Medan Selera Dato Sagor/Clock Tower~『ムアラフ』
モスクの向かいにあります。えーっと、どこに出て来ましたっけ?
③Royal Ipoh Club~『細い目』
ジェイソンがオーキッドの好きな花を見つけるシーンですね。敷地内には入れなかったので、外から何カ所か撮りました。
④St. Michael's Institution~『細い目』、『グブラ』
こちらも敷地には入れなかったので、外からの写真だけです。この学校の右手にはきれいなモスクがあったのですが、何と「インド人イスラーム教徒モスク」と書いてありました。
あと、ジャヴィアンさんは、⑤St. John the Devine Church(『ムアラフ』)と⑥Anderson School(『タレンタイム』)も挙げてくれたのですが、徒歩で行くのはもう限界でギブアップ。イポーはタクシーが全然通りませ~ん。暑さで結構参っていたので最後にお茶でも、と思ってさっきのトレンディ・スポット近くに戻ったら、どうやら四つ角を右に折れた一帯はイポーのリトル・インディアらしいと気がついて、またウロウロ。こんな風に、インドの地名を冠したお店が目立ちます。「チェンナイ」というアクセサリー屋さんで、ついバングルなどを買ってしまいました。あ~、冷房が涼しい...。
2ブロックぐらい歩いたものの、今度こそホントに熱中症寸前になって、元来た道をあわてて戻り、カフェに転げ込みました。マジで、ちょっと危なかったです。というわけで、イポー日帰り旅行はこれにておしまい。イポー駅からは、ライトアップされたヒンドゥー教寺院を見ながら、ETSに乗って無事にKLに戻って来ました。
ヤスミン・アフマドの監督作品『タレンタイム』は、ムヴィオラの配給で来年公開される予定です。公開されたら、ぜひ見に行って下さいね。そして、ヤスミン作品大好きのあなたは、イポーへぜひとも一度お出かけ下さい。