相模原市の障害者施設で先月おきた事件を受け、その検証と再発防止を話しあう厚生労働省の有識者会議が始まった。秋ごろまでに提言をまとめる。

 施設で3年以上働いた容疑者の元職員がなぜ、多数を殺傷するに至ったのか。その供述や経緯は断片的に伝えられるが、全容の解明には時間がかかる。

 きわめて重大な事件である。個人の犯罪としてのみならず、社会全体で教訓をくむべき事態ととらえるのは当然だ。有識者会議は厚労省という枠組みにとらわれず、幅広い観点から問題を掘り下げてほしい。

 容疑者にかかわった行政、警察、医療の各分野の対応を見すえ、課題と連携の改善を考える必要があろう。それには、事実にもとづく多角的な検証を進める姿勢が欠かせない。

 ところが、これまでの議論の方向が、医療に絞られがちであるように見えるのは心配だ。

 容疑者は2月に犯行を予告する文書を衆院議長公邸に届け、その後、行政による強制入院の措置を受けた。そのため退院の判断や退院後の対応が重要な論点の一つであるのは確かだ。

 だとしても、そうした問題は単に病院と医師らの対応だけで解決できるものではない。治療の長期継続やその後の生活支援には、行政や福祉サービス、地域社会などを含む、複合的な態勢づくりが必要だ。

 容疑者は、退院後は東京の親元に行くはずだったが、実際は相模原に戻って、独り暮らしで一時、生活保護を受けていた。そうした情報は役所内で共有されていなかった。

 措置入院の際に大麻の使用も確認されていたが、警察にその情報は伝わっていなかった。

 入院以降の医療と行政・警察との情報交換、退院後のフォローはどうあるべきだったか。医療任せでは議論は尽くせない。

 障害者施設の防犯体制も検討課題になるが、地域からの隔絶を強めるばかりでは、障害者と共生する社会の意識が阻まれ、逆効果になりかねない。

 「地域に開かれた施設」「入院医療中心から地域生活中心へ」という今の精神医療の流れに逆行しないような配慮が求められる。

 障害者団体などからは「精神障害者は危険な存在だ、という偏見、差別を助長しかねない」との懸念も出ている。

 容疑者はきのう殺人容疑で再逮捕された。捜査はこれからもまだ続く。事件の性質を予断で結論づけることなく、慎重に冷静に、同様の事件を防ぐための有効な道筋を探りたい。