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村へと帰還
ある程度泣いて、無理やり心の整理をつける。いつまでもここでこうしているわけには行かないし、あのエルがそんなことを望むとも思えない。今回の結末をランク付けするのならば、もちろん最低に近い結果だろう。だが、自分は常に最上の結果を叩きだせるような英雄ではない……。
後から見返せば、ここはこうすれば良いああすれば良いなんて意見が出てくるのはいつの世の中も同じだ。戦争だって紙面から見ればここはこうすりゃ勝ててるんじゃないか、ここはこのような情報戦を仕掛ければこんな結末を迎えなかったなんて言えるのは、全ての結果を第三者視点から見るからこそ言える。実際に走って戦った人からすれば、その時の最善を尽くした結果だったはずだ。
今回のことも、出会った直後にいきなり黄龍変化をしてエルたちを逃がせば、死なせることはなかっただろう。だがそういった判断が下せるのは、今回出会ってしまったハイエルフがそういう存在だと言うことを知っているからだ。ルイさんにしたって、出会ったハイエルフの本性を知っていたら、頭を下げるのではなく、出会った直後に一目散に逃げることを選択していたはずだ。
「アース、辛い気持ちは解るが……まずは村まで帰ろうか……」
ガルザさんが自分に声をかけて来た。自分は頷き、エルの形見となってしまったエルダーボウを回収を済ませてから、とらちゃんを呼んで帰り道の案内を頼んだ。そうして立ち去ろうとしたときに、後ろから声をかけられた。
「すまぬ、待ってはもらえぬか」
振り返ると、そこには頭を下げたハイエルフの長老がいた。頭を下げたまま、ハイエルフの長老は話を続ける。
「今回のことは、侘びても侘び足りぬ。そちらの三名を治癒した後に話を聞いたが、仲間をガージャに殺されたと聞いている。ガージャの凶行はそちらの水晶所持者が記録していたため、間違いなく事実であることも解っておる……だがせめて、われわれにできることは何かないか? なんなら、この首を差し出しても構わぬ……」
自分はいったん目を閉じた後、とらちゃんをいったん地面に降ろしてからハイエルフの長老へと歩み寄る。
「ならば、歯を食いしばっていただきたい」
そう宣言してから10を数えた後、龍の牙をはずした足でハイエルフの長老を蹴り飛ばした。当然生き残っていたハイエルフ達からは長老に何をする! と言いたげな視線が飛んで来るがそれは無視する。
「──責を感じているのであれば、死より生きて汚名を返上してもらいたい。もう一度ハイエルフの里の規律を締め直して頂く。もし、もう一度このようなことが発生した時は、どんな手段を使ってもハイエルフの里に攻め込むぞ」
ここでハイエルフの長老の首をもらった所で、何の解決にもならない。だったら生きてもらって、相応の償い方をしてもらうべきだ。誇りがあると言うのであれば、その誇りにふさわしい処理をして見せろと言う事である。
「解った……」
起き上がりつつ、ハイエルフの長老は了承の言葉を自分に伝える。その言葉を聞いた自分は、ハイエルフの長老に背を向けてその場を去る。そうして村への帰り道をとらちゃんの案内で進むが、誰も話をしようとする者はいなかった。無理もない、ほんの少し前まではそこにいた人物が今はいないのだから。ぽっかりと穴が開いたような感情は生き残ったPTメンバー全員が持っているだろう。
良く冒険者物に出てくる一節、『昨日まで酒を酌み交わしていた仲間が、今日はいない事もある。それが冒険者だ』と言う言葉を、自分は無意識に軽く読み飛ばしていたのだろうと感じていた。だからこそ、今となってはその言葉が鉛の様に重く感じられた。かなり長く同行していた人がこうして消えてしまうと、こんなにも辛いものなのかと。
そうしてPTの誰もが無言のまま歩き続け、ようやくエルフの村に帰ってきた。門番さんは此方の様子を見て、一発で事情を察したようだ。何も言わず門を開ける。そして自分達は門を空けてくれた門番さんに軽い会釈をして門を通り過ぎようとしたときだった。
「待ってくれ、もしかして貴公はアース殿か?」
門番さんに呼び止められる。なぜ呼び止められたのだろう? 少なくとも悪事は働いた記憶はないが。
「貴公に呼び出しがかかっている。呼び出し主は……聖樹様だ。気持ちが少し落ち着いたら、一人で来て欲しいとの事だ」
──なるほど。聖樹様なら今回の一件、見ていたとしてもおかしくはない。一瞬、なぜ助けてくれなかったんだと言う考えが浮かんだが、すぐにその考えをやめる。聖樹様なりの立場もあるだろうし、助けたくても出来ない事情もあるはずだ。
苦しいからだから助けてもらえるのが当たり前だなんて考えはしてはいけない、苦しい状況に陥ったらそこにいる人達で何とか乗り越えるのが普通なのだから。それだけの努力をした上でどうにもならずに崩壊するなんてことも良くある話であり、救いの手なんかはホイホイ下りてくるものではない。
「承りました……必ず伺います」
聖樹様からの伝言を伝えてくれた門番さんに頭を下げ、村の中へと入る。聖樹様の所にいくのは、明日のログイン後でいいだろう。今日はとてもじゃないが、出向く気分にはなれない。
「何かあったの?」
先に村の中に入っていたルイさんから質問を受けたので、門番さんに聖樹様から呼び出しを受けたことを教えてもらったんだと伝える。
「そうか……俺たちはこれから酒場に行くが、アースはどうする?」
ガルザさんがそんなことを言ってきた。なぜ酒場に行くんだ? と質問をしてみると、トイさんが口を開いた。
「……寿命を迎えて村で亡くなったエルフ以外には、お墓は作られない。なぜなら、共に近くを歩いていた人が生きているのならば、その人の魂も完全には消え去っていないと私たちは考えているから。……もちろん魂自体は女神の元に召されているけれど、記憶と言うもう1つの魂は私たちと共にある。だから酒場に繰り出してその記憶と言う名の魂と一緒にお酒を飲み、今日という日を体と心に刻み込むの」
エルフたちの流儀か。そういうことならば、今日は付き合おうか……下戸でも、この世界ならば何とか付き合える。
「わかった、自分も行こう。エルフの流儀にのっとり、今日という日を忘れない為に」
それからしばらくの間、4人で酒場に入って静かにお酒を飲んだ。誰もが相当な量のお酒を飲んだはずだが、誰もが酔っ払ってはいなかった。酔えない酒というのも苦しいものだが……だからこそ、体と心に今日という日を刻み込むことが出来るのかもしれない。
酒も飲み終わり、PTメンバーと分かれて宿屋に戻りログアウトする前に変貌してしまった願いの弓を確認しておく。
チグルイ(貫通)
復讐のために所持者が血を望んだことにより変貌を遂げた。この弓の強さに魅入られてしまえば、やがてこの弓はコングライへと変貌していく事だろう。貴方もまた、この弓に食らい尽くされる犠牲者の一人となるのか?
Atk333 魂血弓 所有者が変身時のみ使用可能
特殊能力 貫通・決死(威力を15分の1にすることでどんな防御も無視) 魂食い(使用者の魂を削る、魂が削りきられた使用者は消滅する) 血の矢生成(削った使用者の魂から矢を生成する) 血への渇望(命中した相手から、矢が血を吸う) 呪縛(使用者は消滅するまでこの弓を捨てることが出来ない)
今まで多くの人達から分けてもらった力が完全に消えている……それだけではなく、血を奪うことに特化している。そうか、これが聖樹様から呼び出されることになった原因か。おそらく警告を受けるのだろうな……無理もない話だろう、こんな弓を他の人が持っていれば、自分だって持ち主に警告を飛ばしたくなる。しかし、この弓がなければエルの仇を討てなかったのも事実か。
(魂食いというのが特に気になるな、まさか……なんだこれは、軒並みスキルのレベルが大きく下がっているじゃないか……)
そういえばウィザー○○ィにエナジードレインと言うものがあったが、あれに似たような感じか? あれはエナジードレインをうけてLvが1以下になってしまうとキャラクターが完全消滅してしまったが、この魂が削りきられたと言う一文はそれを指しているのかもしれない。そしてスキル一覧でも特に気になった釣りのLOST! も確認してみる。
釣り LOST!
この技能は完全に失われました、取り戻すことは不可能です。また、再び覚えなおすことも出来ません。
なるほど、スキルレベルが下がりすぎると文字通りの完全消失となるか。そういった犠牲を払うからこそ、Atkが+333なんてとんでもない数字になっている仕組みが成立したと。調子に乗ってバンバン使えば使うほど、自分自身の存在を脅かす。これは確かに狂っていると言われても仕方がない。
(とにかく明日だな。聖樹様に全てを打ち明けて話を聞くしかない)
ワンモアからログアウトしてリアルの自分の頬をなでてみると、涙の後があったことを確認した……。
この後は聖樹様との会話の後、エルフの村からダークエルフの谷へと向かいます。
スキル
風迅狩弓Lv16 剛蹴(エルフ流・若輩者)Lv30 百里眼Lv22 技量の指Lv17 小盾Lv26 隠蔽・改Lv1
武術身体能力強化Lv51 スネークソードLv46 義賊頭Lv17
妖精招来Lv7 (強制習得・昇格)(控えスキルへの移動不可能)
追加能力スキル
黄龍変身Lv1.04
控えスキル
木工の経験者Lv1 上級薬剤Lv18 釣り LOST! 料理の経験者Lv7 鍛冶の経験者LV18 人魚泳法Lv9
ExP 13
所持称号 妖精女王の意見者 一人で強者を討伐した者 竜と龍に関わった者 妖精に祝福を受けた者 ドラゴンを調理した者 雲獣セラピスト 人災の相 託された者 龍の盟友 ドラゴンスレイヤー(胃袋限定) 義賊 人魚を釣った人 妖精国の隠れアイドル 悲しみの激情を知る者
二つ名 妖精王候補(妬) 戦場の料理人
チグルイ(貫通)
Atk333 魂血弓 所有者が変身時のみ使用可能 特殊能力 貫通・決死(威力を15分の1にすることでどんな防御も無視) 魂食い(使用者の魂を削る、魂が削りきられた使用者は消滅する) 血の矢生成(削った使用者の魂から矢を生成する) 血への渇望(命中した相手から、矢が血を吸う) 呪縛(使用者は消滅するまでこの弓を捨てることが出来ない)

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