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メカクシ団の日常

作者:蒼空
八月の茹だる様な暑さ。
俺、如月 伸太郎は何故か炎天下の中外を歩いていた。
「ご主人!テキパキ歩いてください!皆さんが待ってますよッ!」
俺の耳元でギャーギャー騒いでいるエネを無視し、意識が朦朧とする中、ある場所を目指した。
「なんで俺が…。」
一向に止まないエネの言葉を嫌々耳にしながら俺は数十分前を思い出していた。
《数十分前》
アジトに着いた俺は、中に入った途端ある違和感に気がついた。…そう、暑いのだ。いつもは入れば程良い位に冷房が効いている。しかし、外の気温とさして変わらない位暑いのだ。その理由を尋ねる前に、キドが口を開いた。
「…あぁ、シンタローにエネ、良い所に来たな。」
流石のキドもこの暑さには勝てないのか、フードを外し、パーカーの袖を捲っていた。
「…なぁ、キド。何でこんなに暑いんだ…?」
俺がそう尋ねると、キドは怠そうな身体を起こし、説明した。
「…実はな、クーラーの調子が悪くて、直そうと試みたんだが…。悪いがエネ、クーラーを直してくれないか?」
そう説明したキドは、俺のスマホに目を向け、申し訳なさそうにそう言った。エネは「了解しました!」と元気に声を上げ、俺のスマホからいなくなった。
「んー…最初は導線の接触が良くないだけだったみたいですが…。導線が無理やり千切られたみたいですよ?これは流石のスーパープリティ電脳ガールエネちゃんでも直すのは厳しいですね…。」
エアコンから声を発する光景をシュールに感じながらキドを呼ぶと、肩をビクッと揺らして「な、何だ?」と動揺した様子で答えた。
「あっれー?キド、もしかして…直そうとして導線千切っちゃった?」
クスクスと笑いながら奥から出てきたカノは、キド顔を覗きながら言った。
「う、五月蝿い…!」
バツが悪そうな顔をしたキドはカノを1発殴り、部屋に籠ってしまった。
「あたた…。あーあ、キド行っちゃった。まぁ、こう暑いと仕方ないよね!…あ、じゃあシンタロー君さ、コンビニにアイスでも買ってきてくれる?」
「はぁ?!何で俺?!絶対行かねぇ…。それに、セトとか頼むやつ他にいるだろ?」
「セトはバイト、マリーはこの暑さで寝込んでるし、モモちゃんは仕事、ヒビヤ君は学校で、コノハ君は今いないし、キドは今あの調子。…僕は新しいクーラー調達しなきゃいけないしね♪」
何てことだ。俺しかいないみたいなこの状況…。そして極めつけは…
「ご主人?勿論行きますよね?」
いつの間にか俺のスマホに戻ってきたエネが、俺の秘蔵フォルダを添付したメールを一斉送信のボタンを押す手前で、笑顔で首を傾げている事だった。

「…主人!ご主人!」
エネの甲高い声で回想を終了させた俺はエネの方に目をやった。
「…ったく、五月蝿ぇな…。何だよ…。」
「今!赤信号でしたよ!危ないじゃないですかッ!」
「あ、あぁ…悪い。」
コイツはコイツなりに心配してくれてるのか…?そんな事を思った矢先
「そうですよッ!ご主人に当たった車が可哀想じゃないですか~。あ、そこを右に曲がったら目的地のコンビニに着きますよッ!」
…俺がコイツに情があるかもしれないと思った俺が間違ってた。コイツは笑顔の仮面を被った悪魔だ…!
そんな俺の想いはコイツに伝わる筈も無く、只々嬉しそうに笑っていた。
やっとの思いでコンビニに到着していた俺は、コンビニの冷気により生き返った。俺は買う筈のアイスには目もくれずら黒色炭酸飲料の元へ足早に向かった。
「ちょ、ちょご主人!私達はアイスを買うために来たんですよ!コーラを買う為に来た訳じゃありませんよ!」
「だぁあ!わかってるよ!良いだろ別にッ!少しくらい自分の好きなもの買ったって!」
そんな言い合いを店内でしていた俺は、周りから「イタイ人」として見られていた。…当たり前だ。携帯に向かって1人で怒鳴っているのだから。死にたい。俺はそそくさとアイスと黒色炭酸飲料を買い、店内を出た。
コンビニを後にした俺は、光の速さともとれる速さで黒色炭酸飲料に手をつける。プシュッという小気味良い音を立てた瞬間、俺の喉をその飲料が勢いよく流れる。あぁ、幸せだ。まじでしあわ…
「何脳内で語ってるんですか?ご主人、キモチワルイ…。そんな事してる暇があるなら歩く歩く!ほらご主人!ファイト!いちにっ!いちにっ!」
応援用のボンボンを持って、足踏みをしながら掛け声を掛けてくる。
「お前は能天気でいいな…。暑くなさそうで。」
「……そうですよッ!ほら、アジトが見えてきました!ご主人、早く早く!」
エネの表情が少し固まった気がした。コイツにも「心」というものがあるのだろうか。暑いと感じてみたいという心はあるのだろうか。そんな想いは口に出さず「あぁ」とだけ答え、アジトの扉を開けた。

俺が扉を開けた後、最初に言葉を発したのはエネだった。
「皆さん!アイス買ってきましたよッ!」まるで自分の手柄だとでも言うように笑顔でそういうエネ。
「いや、買ったのお前じゃなくて俺だけどな…。」
それを遺言にでもする様にふらついた足で俺はソファーに倒れ込んだ。
「え、ご主人?ご主ー…」
俺を呼ぶ声が段々と遠のき、俺は意識を手放した。

「…い、おい、シンタロー。いい加減に起きろ。大丈夫か?」
聞き覚えのあるハスキーボイス。重たい瞼を開き、俺の顔を覗きこんでいるのはキドだった。
「あれ、俺…」
意識がはっきりとしない。取り敢えず立ち上がろうと身体を起こすと、強烈な身体の怠さと、目眩が俺を襲った。
身体の怠さと目眩から、再度ソファーに横になった俺は怠さの原因をキドに尋ねた。
「あぁ、お前、熱中症だと思うぞ。まぁ、軽い熱中症だから、少し安静にしておけば治るだろ。」
額に貼られた生温い冷えピタが俺が何時間か眠っていた事を示していた。
「あ、シンタローさん。大丈夫っすか?すいません…。俺がバイトじゃなかったら、代わりに買いに行ったんすけど…。」
「いや、俺が勝手に倒れただけだし、今は大分マシになったから気にすんな。」
バイト帰りのセトにそう伝えると「良かったっす!」と言って爽やかな笑顔を向けた。…きっとこういう奴がモテるんだろうな。爽やかな笑顔…。コミュ障の俺には縁のない言葉だ。そんな事を思っているとセトが口を開いた。
「あ、そうそう。マリー、シンタローさん起きたっすよー。」
部屋のドアを開け、顔だけ覗かせたマリーは「シンタロー、大丈夫…?」と言いながら、こっちに来た。
「あぁ、悪かったな。心配かけさてたみたいで。マリーはもう大丈夫なのか?」
「うん!大丈夫!私、冷たい紅茶淹れてくるね!」
まだ暑いにも関わらず、マリーは小走りで台所へ向かった。台所から入れ違いで出てきたのはカノだった。
「あ、おっはよー。シンタロー君。大丈夫?ってか最寄りのコンビニ行っただけで熱中症って…っ。」
…コイツに会うと大抵、馬鹿にされる。もう帰りたい。でも周りから心配されてる手前今帰れねぇし…。腹を抱えてケラケラと笑うカノを軽く睨みつけてやった。
「カノ、そんなに笑ったらシンタローさんに失礼っすよ」
「ーっは、あーごめんごめん。つい可笑しくって…」
笑いながら謝るカノの説得力は皆無に等しかった。するとセトが俺の側に寄ってきて、小さな声でこう教えた。
「今はあんな事言ってるんすけど、シンタローさんの冷えピタ買って来たのカノなんすよ。それに、シンタローさんが買ってきてくれたアイス、『皆で食べた方が美味しいかもよー。』なんて言って、暑い中我慢してたんすから!何だかんだで心配なんすよ、カノも。」
「分かりにくいっすよね。」と困ったように笑い、カノを見るセトに連られ、俺もカノを見るとヘラヘラと笑いながら「何何?何の話?」と首を傾げていた。
「じゃあ、シンタロー君も起きた事だし、おやつタイムにしよっか♪」
そう言うとカノは、台所へ向かった。この時のカノの目が赤いことに俺は気づかなかった。ましてや、
「…余計な事言わないでよ。セト…」
と台所に蹲って赤面している事など想像も付かなかった。

「…とと、お待たせっ!紅茶淹れて来たよ…!わぁ!?」
小走りで紅茶を持ってきたマリーは何も無い所でよろけた。やばい、こればデジャヴだー…。
慌てて立ち上がり、俺はマリーの持っているトレイを取り上げた。しかし、今にも零れそうなカップの中の紅茶のバランスを保つので精一杯だった。俺はそのまま倒れるマリーを横目で見るしか無かった。
「…っと、大丈夫っすか?危なかったすね…」
マリーが転ぶ寸前でセトがマリーの腕を引き、転ぶのは回避された様だった。
「はぁ…死ぬかと思ったぜ…」
トレイをテーブルに置いて、冷や汗を拭い、そう溜息をついた。
「はわわわ…!ごめんなさいごめんなさいごめんなさい…!」
「良いんすよ、マリー。次から気をつければ。」
ヘナヘナと座り込み、涙目で謝るマリーに、セトは優しく微笑んだ。
此処でイチャつくのは止めてくれ…。
「まぁ、お前に悪意があった訳じゃねぇしな。じゃあ俺、キドとカノ呼んでくるから。」
人数丁度に淹れてあるカップを横目に俺は立ち上がり、2人を呼びに行った。2人を連れ、ソファーに座るとドッドッドッドッドッドッ…という音がドアの向こうからこちらへ近づいてくる。何だこの恐怖は…。がチャリ、とソレはドアを開けた。俺はゴクリと生唾を飲み込んだ。
「…お兄ちゃん!!熱中症って大丈夫?!エネちゃんから聞いて…!」
「お前かよ!!お、俺まじでびびったんだけど…。」
「あ、何だ。元気そうじゃん、お兄ちゃん。良かった良かった!」
アハハと笑いながら入ってきたモモと後ろには汗だくのヒビヤと汗一つかいてないコノハがいた。
「おばさん!何なの?!これ!帰ってる途中でいきなり『お兄ちゃんが死ぬかも!』っていきなり…!」
ヒビヤは息を切らしながら、モモと俺を睨んできた。いや、俺に睨まれても…。

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