ふとしたことから、高須院長のナイジェリア支援活動に関わることになってしまった単なるサッカーライター結城康平。BBCのアフリカ担当記者Oluwashina Okeleji(オケレジ)氏への連絡によって、歯車は大きく動き出した。
グループ参加者:「高須克弥」、「英国BBC記者」、「一般人」
そんな中、高須院長が新たにつぶやきを投下する。これが、僕とオケレジ記者を混乱の渦に叩き落すことになる。
蛇足だが、このとき僕はDEAR Magazine編集部の面々と居酒屋で、わさびの効いた山芋のしょうゆ漬けをつまみにビールを飲んでいた。酔いが一瞬で吹き飛んだ。
https://twitter.com/katsuyatakasu/status/764425438118580224
今回この件には、尽力されたもう一人の方がいる。プロクラブのオーナーとしてナイジェリアにもクラブを持つ加藤明拓氏だ。加藤氏は、高須院長の支援の意志をナイジェリアサッカー協会に伝える。
これによって、当面のボイコットを回避することに成功し、ナイジェリアの希望は繋がった。これがなければ、ナイジェリア代表がデンマークとの試合を迎えることは出来なかったはずだ。
ナイジェリアサッカー協会No.2は知り合いなので、すぐ連絡つきます。
また、シアシア監督の個人秘書も調べたので、いつでも協会、監督の両方にいつでも連絡つきます。
高須さんに直接連絡取れる方いたら、お願いします。 https://t.co/9bZoijPFd4— 加藤明拓(プロクラブ オーナー) (@Forward_kato) August 13, 2016
一方で、これを見た僕には(そしておそらくサッカーファンも)どうしても拭いきれない不安があった。それは「ナイジェリアサッカー協会、横領しそう」ということである。
即座にオケレジ記者に連絡すると、「協会の口座を通すのは危険だ。高須氏は本気なのか?」と、僕がまさに感じていた言葉が返ってきた。彼は、「どうにかして、協会ではなくチームに資金を払うように出来ないか」と僕に伝えてきた。
携帯電話を使って焦りながら恐る恐る高須先生にリプライを送った。
@katsuyatakasu 高須先生、DEAR magazineの結城と申します。現在、BBCの記者と先生の支援について話をしていたのですが、彼は横領されるリスクがあるので、より安全なルートを構築すべきでは?と言っております。一度、DMか何かでご連絡いただけませんか?
— 結城 康平 (@yuukikouhei) August 13, 2016
すると、高須先生が反応。
BBCで顛末を追跡してくださるよう希望します。万が一横領されたら闇が暴かれてナイジェリア選手に光りが当たります。安全なルートがあるならご教示ください。僕のTwitterは全てオープンです。不屈のナイジェリア選手の応援をしたいだけです https://t.co/MQONRn2fpI
— 高須克弥 (@katsuyatakasu) August 13, 2016
TwitterのDMを使い、オケレジ記者の意図とBBCに所属している事実を伝える。「とにかく直接、話をしたい」と何度もメッセージを送ってくるオケレジと、高須院長をDMのグループに登録。
なにが起こっているのか、よくわからない。手が震えてきた。
想像してみて欲しい。「高須クリニックの高須克弥院長」と「英国BBCの記者」と「自分」がDMグループにいる。この状況をその日の朝に想像できるひとが果たしてどれだけいるだろうか。高須クリニックのCMを、Youtubeで探していたはずだったのに。
僕は気づけば同時通訳として、オケレジ記者と高須先生の間に入ることになった。オケレジ記者は高須先生に、「どうしてナイジェリアをサポートしたいと思ったのか?」「メダルを取れなくても、資金を寄付する気はあるのか?」など多くの質問を投げかける。
そして、彼は送金の安全な方法として以下を提案した。
①裕福な秘書、もしくは当事者である監督の口座に振り込む
②大使館を通じて支払う
まさかのBBCが世界中に配信
更に会話の中で知った内容を、オケレジ記者はBBCのニュースとして配信する。世界中に“ Katsuya Takasu”の名が知れ渡るという、予想外の事態が発生する。
BBC(英国放送協会)は、世界中のニュースを扱うメディアの中で、CNN(アメリカのケーブルテレビ向けニュース専門放送局)と並ぶ規模を持つ。全世界の視聴者は、3億4,800万人ともいわれている。
Nigeria team promised big reward to win Olympic gold
http://m.bbc.com/sport/football/37071468
高須先生を表現するために使われる英単語が「ビジネスマン」から、「著名な整形外科医」へ。“Celebrated Japanese plastic surgeon”という表現に辿り着くまでに、慣れない日本語の記事を探したに違いない。これこそ「英国国営放送に所属する一流記者のリサーチ能力」というべきだろうか。僕が説明したことも、綺麗な英語にまとめられていた。
ただ、正直なところ一言欲しかった。いままさに手元の画面上で起きていることが突然ニュースに(しかもBBCの)出たらどうなるか、もういうまでもないと思う。
https://t.co/qlZKpbRPzB 高須先生がナイジェリア代表を支援する話、協力してくださっているOkeleji記者がBBCで記事化しています。まさかこんなことになるとは、手が震えています。
— 結城 康平 (@yuukikouhei) August 13, 2016
一方激戦の地ブラジルでは、準々決勝のボイコットを回避したナイジェリア代表がデンマークを下し、ベスト4へと駒を進めていた。目覚めた僕は、それを知ることになる。
怯える我々、院長の選択
怒涛の展開で過ぎ去った8月13日を終え、8月14日。穏やかな日曜日は、非日常の空気に包まれていた。
翌朝、高須先生に電話することになっていたオケレジ記者からの電話を取ると、彼の声はやや不安な様子だった。
動く金銭が非常に大きい、かつ国際的に関心の高いトピックということもあり、ジャーナリストという立場からの関与は最小限に抑えたいと彼はいう。関わっていることが知れると、狙われる恐れも出てくる。
彼はチーム関係者(ブラジルにいる監督と信頼出来る秘書)との連絡ルートを用意してくれ、あとは高須院長と彼らで直接やり取りをして欲しいといった。彼は、自分の高須院長への連絡は以降は僕を通し、これ以上間に入ることを出来る限り避けたいように見えた。
「ナイジェリアでは全員が、高須の話に絡みたがっているみたいな違和感がある」と彼はいう。BBCによって一気にナイジェリアに広がったニュースに、多くのナイジェリア人が集まってきているような状態になっていたのだ。恐らくその中には、寄付金を自分のものに出来ないかと企んでいる人も、もしかしたらいたかもしれない。
そんな異様な状況に、僕とオケレジ氏は当然怯えていた。何とか秘密裏に話を進め、直接チームの関係者に資金を送りたい。可能な限り、自分の手から放してしまいたい。
そして最終的にテーブルの上に用意されたのは、以下の送金方法。
①ナイジェリアサッカー協会への振り込みを行い、信頼できる人間がサポートする
(加藤氏が確保した方法。信頼できる人間となるとオケレジ記者になるかもしれないが、彼はこれ以上の関与を避けたがっている)
②キャプテンであるミケル、監督の秘書、監督の3人の口座に秘密裏に直接振り込む
(どのように本人の口座であることを証明するか、という問題が残る)
③大使館に寄付金を渡す
(大使館から届く過程で中抜きされてしまうと、選手に届かないリスクがある)
最終的に高須院長が選んだのは③だった。高須院長は、非常に冷静だった。修羅場を幾度となく潜ってきているに違いない一流の経営者は、焦る我々を諭すようにいった。
「僕は、寄付金を横領されることは恐れていない。それに、人を騙すより、騙される方がいい。それが、僕のポリシーなんだ」
答えは、いつもシンプルなものなのかもしれない。
複雑に見えて極めて単純なのがしゃばの世界(*´∀`)♪ https://t.co/l4HDqZfMi7
— 高須克弥 (@katsuyatakasu) August 13, 2016
その落ち着いた言葉は、我々を目覚めさせてくれた。無理に直接送る必要はなく、院長が選択した「大使館を通る正式なルート」で中抜きされない何かしらの方法を考えよう。僕は、大使館のルートを使って安全に資金を届ける方法をオケレジ記者に相談する。
それまでは何度となく不安そうに「俺の仕事は、ここまでだ」と自分の状況を把握するように繰り返していたオケレジ氏も、それを聞くと、方向性が定まったことに安心したようだった。声色が大きく変わったのを、僕も感じ取った。
すると冷静に戻った優秀な記者は、あっさりと答えを提示する。彼の導き出した答えが、僕の中でパズルの最後の1ピースみたいに嵌った。
BBCの記者が考案したアイディアは、「横領を防ぐ」最高の解決策に思えたのだ。高須先生の秘書に電話でそれを伝えると、「素晴らしいアイディアですね」と答えた。状況は、ようやくひとつの着地点に近づき始めた。
オケレジ氏の人脈を使うことで、ブラジル国内にいるチームのスタッフを通じてシアシア監督と高須先生が直接会話することも出来た。
https://twitter.com/katsuyatakasu/status/764812936938336256
https://twitter.com/katsuyatakasu/status/764820294741536768
今、我々Dear Magazine編集部はBBC記者オケレジと共に「最後の詰め」に動いている。その瞬間をお伝えできる日も遠くない。
続報を待て。
記事掲載協力:高須克弥(高須クリニック)、Oluwashina Okeleji(英国BBC、アフリカ担当記者)