声楽の素質があり、音大に行きたかった少年は、将校になれという親の意向に逆らうことができなかった。
韓国軍歌政策研究所のチョン・ソンヨプ副所長(58)は、海軍士官学校を出て軍人になった後、海を友とする人生を送ってきた。しかし、海軍政訓広報室長時代の2012年1月、ドイツで開かれた「Musikschau der Nationen」に参加する韓国海軍軍楽隊の団長を務めたことで、忘れていた「音楽の本能」がよみがえった。
「大会前に、韓国の軍歌をどれだけ多様に編曲できるか調べてみて、ほとんど放置されていることを知りました。単旋律の楽譜しかないと思って、軍歌合唱団すら、ドイツや英国の軍歌の方をよく歌っていました」
65万の韓国軍人が歌うおよそ300曲の軍歌の制定背景や歴史を整理した資料も、事実上皆無だった。チョン副所長は「残念で、恥ずかしく思いながらも、一方では『これこそ自分がやるべきこと』という熱い思いが生まれていた」と語った。12年5月に予備役編入され、水原大学の大学院で本格的に音楽の勉強を始めた。最終的に、望んでいた勉強をすることになったわけだ。学部時代から音楽を専攻してきたほかの学生たちを抑え、チョン副所長は首席で卒業した。翌年、軍歌政策研究所(韓南大学付設)を設立したのに続き、最近は『軍歌の話』という本も出版した。
最近チョン副所長は、あちこちつてをたどって1950・60年代の軍歌集を探している。当時の軍歌集に、いわゆる「勇進歌」があるかどうか確認するためだ。日本軍も歌っていたこの歌を根拠に、韓国軍の正統性を損なう勢力がいるからだ。
しかし、チョン副所長が51年と53年に出た軍歌集を入手・確認してみた結果、どこにもこの歌は載っていなかった。チョン副所長は「建国当初の混乱した時期に、一時的に歌っていたかもしれないが、軍歌集にないということは、当時の先輩たちがあえて除外したということ。韓国の軍歌は決して日本の軍歌の亜流ではない」「韓国軍の正統性を損なうために一部の左派知識人が言いふらしたことが、広範囲に広がっている。韓国の軍歌の正統性を樹立する作業を急がなければ」と語った。
軍歌記念碑を立て、博物館に軍歌コーナーを設置するなど、今後やるべきことは多い。日本は全国4カ所に海軍の軍歌記念碑があり、中国は各軍事博物館に軍歌コーナーが別途設けられている。これに対し韓国では、海軍士官学校博物館前にある「海に行こう」の軍歌碑が唯一。チョン副所長は「韓国各地に歌謡碑があり、中国の『人民解放軍歌』を作曲した鄭律成(チョン・ユルソン)のような作曲家は記念していながら、肝心の韓国の軍歌は何ら記念していない」「軍歌の歌詞には、歌が作られた背景や当時の生活が盛り込まれている。軍歌一つきちんと教えるだけでも、兵士たちにとっては立派な政訓教育(韓国軍における教養・理念教育)になるといえるだろう」と語った。