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就活生悩ませるサイレント 実態に迫る

6月に大手企業の面接が解禁になり、2か月余りがすぎました。去年はオワハラ(企業が学生に内定を出す代わりに、就職活動を終えるよう強要すること)が問題になりましたが、ことしは新たな問題、サイレントが学生を悩ませています。
サイレントとは、企業が学生に「面接の合否を伝える」と約束しておきながら、長期間にわたって連絡せず、待たせ続けることです。これまでにも一部の企業で見られましたが、ことしは特に目立っています。
おはよう日本の笹川陽一朗ディレクターが、その実態に迫り、背景を解説します。

就活中の学生悩ませるサイレント

サイレントの現状を知りたいと、まず訪れたのが都内の就活カフェです。就職活動中の学生専用のカフェで、新卒採用を実施している企業の情報などを自由に閲覧できます。

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店内にいた大学4年生たちに聞いたところ、多くの学生が「ことしの就職活動でサイレントを経験した」と答え、「合格しても、不合格でも、連絡をくれるといった企業からいまだに連絡がこなくて、状況が分からない」「連絡が一切来なくなって、おかしいという気持ちでいっぱい」などと悩んでいる声も次々と聞かれました。

長年、学生の相談にのってきたキャリアカウンセラーの平岡恵美子さんは「去年もサイレントの事例はあったが、ことしは特にサイレントに悩んでいる学生が増えた印象があります。八方ふさがりでどうしていいかわからないし、先の光が見えないというか、いつになったら抜け出せるのかわからず、宙ぶらりんな状態でメンタル的に大変だと思います」と話します。

17社からサイレント ある学生の告白

就活カフェで出会った大学4年生の山中博文さんが、サイレントの実態をより詳しく教えてくれました。

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彼がサイレントを受けているのは大手商社から。大学で国際関係を専攻しているため、専門を生かしたいと強く希望して一次面接を受けました。すると採用担当者から「(一次面接で)すごく優秀だったからほかの面接を受けないで、うちの面接を進めてほしい」と連絡が来ました。その日は、ほかに2社の面接を受ける予定でしたが、その選考を受けないで、大手商社の二次面接を受けました。ところが、それから2か月以上、全く連絡がありません。
サイレントは一見、『学生側が企業に問い合わせをすれば解消するのではないか』と思われがちですが、そう簡単ではない、と山中さんは言います。採用基準が学生側には開示されていないため、しつこく電話をすることも選考の不利になるのではと心配で問い合わせできない、と言うのです。

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さらに山中さんは、サイレントにあったのは一社だけではないと、受験した企業の選考状況を見せてくれました。サイレントを受けている企業は実に17社。そこには一部上場の大手企業の名前がずらりと並んでいました。
山中さんは「疑心暗鬼になってつらかった。連絡が来るのか来ないのかわからなくて、どうしたらいいのかわからないという気持ちにとらわれる」と話しています。

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サイレントが招く深刻な状況

サイレントが深刻な問題につながるケースも相次いでいます。
就職活動が原因の1つとなり、「うつ」を発症してしまう学生も出ているのです。
取材に答えてくれた大学4年生は、面接で手応えを感じていた企業から突然連絡が途絶えました。

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次の面接がいつ入るのかわからず、他の企業への就職活動を積極的に行えませんでした。さらに人事担当者からの電話はいつも非通知でかかってくるため、着信を逃すとかけ直すこともできず、携帯電話を片ときもはなせない日々が続きました。

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そうした状況について、この学生は「すごく怖かったですね。肌身離さず(携帯電話を)見ていたという感じです。五里霧中というか、異常に不安がありました」と話しています。
さらに、去年あたりから求人倍率が高くなり、売り手市場が続く中、「ことしの学生は簡単に内定が出るのではないか」といった世間のムードも重荷になったといいます。この学生は、心配した母親のすすめで都内の精神科クリニックを受診し、「うつ」と診断されました。

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この学生が通っている精神科クリニックで、心の不調を訴えて診察を受けた学生は、この半年で60人に上り、去年よりも大幅に増えています。
クリニックの渡辺佐知子医師は「いつ終わるか分からないとなると、どんどん不安が連鎖して、負の連鎖になってしまう。重大な結果が分からずに、ただ待ち続ける、そういう状態は極度の不安・緊張が続いてしまうため、精神的にも疲弊してしまい、体調を崩す方も出てくるはず。相談に来なくても悩んでいる学生はもっといると思う」と話します。

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サイレントについて初の調査

ことし5月、人材情報を専門に扱う企業、アイデムの「人と仕事研究所」が行った調査では、初めてサイレントの実態を調べる項目が加えられました。
その結果、企業の新卒採用担当者1000人のうち、サイレントを行うことが「ある」と答えたのは22.4%。さらに従業員が3000人以上の企業では31.8%に上っていました。
サイレントは人手不足といわれる中小企業だけでなく、大手企業の間でより広く行われていることが浮かび上がってきました。

採用担当者たちの告白

なぜ企業はサイレントを行うのか?

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今回、商社や広告会社など複数の企業の採用担当者が匿名を条件に取材に応じました。彼らは「完全に人材獲得競争の原理です」と口をそろえます。

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担当者たちによると、採用試験を受ける学生をS・A・B・Cの4つのランクに分け、S・Aランクには内定を出し、Bランクの学生の一部をサイレントにするといいます。そして内定者が他社にとられたとき、サイレントにしていた学生に、選考が続いていたかのように装って声をかけ、穴埋めにするというのです。

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「サイレントをすることによって1か月後、2か月後に『では次の選考をしましょうか』という状況を保険としてかけている」と話す担当者もいました。

さらに、ことしサイレントが広がっている大きな要因の1つは、去年の就職活動で問題になったオワハラが関係しているといいます。企業が内定者に就職活動を終えるよう強要するオワハラは、現在自粛要請が出されています。そこで採用人数を確保する新たな策として、サイレントを行う企業が増えたと見られています。

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採用担当者の一人は「予定の採用者数がとれないと人事担当者の評価が下がってしまう。サイレントは戦略的にやらざるをえない方法だと思う」と明かしました。

採用試験の透明化を

8月3日に、就職情報を扱う企業、マイナビが発表した調査では、ことし就職活動を行った学生の43.7%(7月末時点)が、今も活動を続けていることがわかりました。その中には、サイレントを受けることで就職活動をやめられない学生も多いとみられています。

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こうした事態に、若者の労働問題や就職活動の調査にあたってきた法政大学の上西充子教授は「社会の中で活躍してほしい人たちをいたずらに傷つけるようになってしまっていると思う。選考したらその結果はいつまでにお知らせします、というようなことは企業がはっきりと示してほしい。次の連絡までの期限だとか、連絡方法だとか、そのくらいは誠実に企業側に対応してほしいと思う」といいます。

去年はオワハラ、ことしはサイレントと、毎年のように就職活動をめぐる問題が顕在化しています。取材を通して見えてきたのは、企業の都合のみが優先される採用活動の在り方そのものが問題だということです。
就職活動は、学生たちが社会に出て企業と向き合う最初の機会です。そこで学生たちを落胆させ、不信感を増幅させるような事態を招かないよう、学生の立場にたった明確なルール作りが必要ではないかと思います。

笹川陽一朗
おはよう日本
笹川 陽一朗 ディレクター