時代の正体〈374〉自治体の気概として 条例はなぜ必要か(上)
ヘイトスピーチ考 師岡康子弁護士
- 特報|神奈川新聞|
- 公開:2016/08/11 02:00 更新:2016/08/12 00:24
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自治体にとってはヘイトスピーチを行う集会に公共施設を貸すべきか否かが問題となっているが、解消法の成立以前から、人種差別撤廃条約に照らして不許可にすべきだというのが私の考えだ。
人種差別撤廃条約に照らせば、2条1項bでは「各締約国は、いかなる個人又は団体による人種差別も後援せず、擁護せず又は支持しないことを約束する」としており、同項dでは「各締約国は、すべての適当な方法(状況により必要とされるときは、立法を含む)により、いかなる個人、集団又は団体による人種差別も禁止し、終了させる」としている。人種差別行為が行われるのが明らかなのに公共施設を貸し出すのは、これらの条項に違反する。条約は日本の法律や条例より上位に位置付けられる国内法であり、禁止し、終了させなければいけないのに差別に手を貸すことは許されない。
どのような場合に貸さないでよいかの判断は容易でない場合もあり、それぞれの公共施設の担当者に任せるのは負担が大きい。東京弁護士会が昨年9月に発表した「人種差別行為が行われることが客観的事実に照らして具体的、かつ明らかに認められる場合は貸さなくてよい」というガイドラインが参考になる。できれば条例をつくり、そこにガイドラインを組み込んでいくことが望ましい。差別禁止と表現の自由とのバランスを取るためにも適切だ。
そこでは厳格な要件を決めて、適正な手続きを保障することが望ましい。たとえば、貸さないと判断する前に申請者の意見を聞く、あるいは恣意的な判断が行われる危険性をできるだけ排除するため、国際人権法や憲法、人種差別撤廃問題に精通した専門家、法律家、NGOなどの有識者の意見を聞く独立した機関を設けるのがよいだろう。
ヘイトスピーチ解消法に基づく自治体の対策は、継続性があり、実効性あるものとし、きちんと予算をつけるためにも、条例を設けるべきだ。
ヘイトスピーチ根絶のためには、ヘイトスピーチ対策に限定せず、人種差別撤廃基本条例、あるいは多文化共生社会基本条例もしくは人権条例のような基本条例をつくり、そこへ禁止条項を入れ、すべての公共施設の通則的なものを入れるやり方もある。そのほうが公共施設の利用制限が反差別理念に基づくことがはっきりして乱用防止にもなるし、行政事務としてすべての公共施設の管理条例を改正するという大変な作業をしなくても済む。
なお、ヘイトスピーチ対策条例としては大阪市に先例があるが、公共施設を貸し出さないというところまでは踏み込んでいない。だが、これはヘイトスピーチ解消法の成立以前にできたものだ。
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