そんなわけない
そんなわけないのだ。
実はこのあと風邪をひいて、習った時の喉の感覚が分からなくなってしまった。
いつか本当にちゃんと練習して習得したら、ゾウもシカも聞いてくれるかもしれない。
実はこのあと風邪をひいて、習った時の喉の感覚が分からなくなってしまった。
いつか本当にちゃんと練習して習得したら、ゾウもシカも聞いてくれるかもしれない。
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聞いてないこともないような表情。
今まで漠然と憧れていたが、すごすぎて敬遠していたものがある。
モンゴルの伝統的歌唱法、ホーミーである。 むりやりにでも習得してみたい。 例えば何かちょっとした一工夫で、簡単にホーミーを出す方法などはあるのだろうか。 考えても見当がつかないので、すごすぎるホーミーの発声をまずは習いに行って、それを動物たちに聞かせてみた。 ※この記事はとくべつ企画「むりやり○○」のうちの1本です。ライターがいろいろなことにむりやり挑戦します。 ホーミーとはホーミーとはモンゴルに伝わる歌唱法で、遊牧民が家畜を呼ぶために使っていた発声が元祖と言われている。
一人で低音と高音、二つの音を同時に出せることが特徴で、雄大な草原や遠くに見える山の連なりを想像しながら聞くと、出身でもないのになんだか懐かしい気持ちになる不思議な音楽である。 そして、日本でもホーミー好きな人が意外と多いのではないかというのが僕の推測である。 ライターの大北さんも学生時代、受験勉強の合間にホーミーの練習をしていたそうである。(写真は、これから行くホーミーの教室で発声の練習をしているところです)
編集部の石川さんもホーミーに詳しく、「ホーミーやると脳が震えて死ぬらしい」という怖すぎる都市伝説を教えてくれた。
石川さんから届いた文章。こんな怖いメールってない。なんかよくわからないけど死ぬ。
ただそのあと色々とホーミーの情報を教えてくださったので、じゃあ結局石川さんは僕のことをどうしたいのだ…!という、雑な指示を受けるRPGの主人公みたいな気持ちになった。
とにかくホーミーファンは意外と多い。 むりやりにでもホーミーを出すコツが分かれば、きっと有益な情報になるだろう。 ホーミーのレッスンを受けてみる余談だが、教室の近くに気になるラーメン屋さんがあった。
夜はマスクが光るのかもしれない。
そして今回指導をお願いした、ホーミー奏者のB.ボルドエルデネ先生である。
ボルド先生のプロフィールはこちらのページで詳しく知ることができるが、「国際モンゴルホーミーコンクール金メダル」と言ったら、ホーミーに詳しくない僕が聞いても、先生がホーミーの第一人者であることが分かる。
緊張してきた。 先生によるホーミーと馬頭琴の演奏。2:50辺りは特に、はっきりと二つの音が聞こえてきて、ここまでとは!とびっくりした。何より音がかっこいい。
まずはホーミーについてのお話を色々伺った。
まとめると以下のような内容であった。 ● ホーミーには、モンゴル民族によるホーミーとトバ民族のホーミーに大別される。モンゴルのホーミーはゆったりして力強く、音域が広い。トバのホーミーは技の種類がたくさんある。
● 先生は小さい頃から羊やヤギの鳴きマネをしているうちにホーミーの基礎を学んだ。 ● 草原で馬に乗りながらホーミーを歌うととても気持ちがいい。馬も嬉しいらしく、耳をこちらに向けて聞いてくる。 ● 水中でもホーミーの高音の響きが届いた、という話がある。 ● 耳の聞こえない方にもホーミーが聞こえた、という話もある。 最後の二つなんかもう、超能力の域である。
中学生男子は、直ちにかめはめ波の練習をやめてホーミーの練習を始めた方がよい。 なんちゃってホーミーに気をつけろ実践である。
ホーミーの発声には、基本となる「シャハ」と、より低い音が出る「ハヘラ」の2種類がある。 先生のお手本のシャハを聞きながら真似して声を出してみるところからレッスンが始まった。 先生のお手本のシャハ。
真似して声を出してみる。
この「シャハ」だが、お手本を聞いて真似しただけですぐできてしまう人もいるらしい。(僕はできなかった)
だがすぐにできない人でも継続して練習すれば、そのうちしっかり身につくものだと先生は言ってくださった。 どうしてもできない人はごくわずかで、ただ最初に「ハヘラ」の発声から身につけてしまうと、その後ハヘラしか出なくなってしまうので注意が必要だということであった。 シャハ発声のポイントは以下のような感じである。 ● 普段使わない、喉の下の方を使う。
● すると咳き込んだり涙が出たりするが、その状態がよい。 ● 唇やアゴ、舌の力は使わない。 ● 鼻に抜ける声も使わない。 ● とにかく喉と腹筋に力を入れる。 ● 正しくシャハを出せれば、自然と高音が出るようになる。高音は舌の動きで音程をコントロールする。 事前にインターネットで調べてきた情報と違う。
舌を上アゴの方に向けて口の中に空間を二つ作って、「る」の口の形で「い」と言う感じで、とかそういうテクニックの話は一切出ない。 聞くと、そういったものは先生に言わせれば「なんちゃってホーミー」で、それでも倍音のようなものは出るが喉の使い方が全然違うということであった。 確かに実際に聞いた時の、先生のホーミーの音の伸びというか、スケール感のようなものは本当にすごかった。 二つ音が出ればよいというものではないのだ。 涙が出た時が正しいホーミー先ほども書いたが、素人がホーミーの喉の使い方をすると咳き込んだり涙が出たりする。
というかもう、咳き込んだ瞬間の喉への力の入れ方を捕まえればそれがホーミーだという。 そうなるまで喉を「締めて」発声するのがポイントなのだ。 そしてそのために、喉や腹筋を使いながら発声をする色々な練習がある。 まずこちらが、「座ってのけぞりながらシャハ」である。 オ゛オ゛オオオオ〜〜
そしてこちらが「お腹をグングン押してもらいながらシャハ」である。
オ゛オ゛オ〜〜オ゛ッ! オ゛オ゛オ〜〜オ゛ッ!
そしてなんと「持ち上げてもらいながらシャハ」である。
オ゛オ゛オオオオ〜〜
オ゛オ゛オオオオ〜〜〜〜〜
すごく疲れるし苦しい。
咳き込んで泣いた。 泣いた。
よりハードなものだと、「仰向けになってお腹の上に乗ってもらいながらシャハ」というものまであるそうだ。
だがこうやってトレーニングをして喉が疲れてくるほど、シャハ発声のための形になりやすい。 現に発声の練習をしていくうちに、喉の奥で「ゴロゴロゴロ…」と馴染みのない細かい響きを感じるようになった。 喉の力が足りなくて叶わなかったが、これを強く、そして長く出せばきっとシャハになるのだ。 「先生に耳元でシャハしてもらいながらそれをマネしてシャハ」という練習もあった。
すぐ出ないものは出ないこの感覚を忘れずに練習を続ければそのうちシャハが出るのだそうだ。
僕も何となくそんな気がした。 普段出さない声だけに、継続して慣れていくことが大事なのだ。 だが今回は、一工夫して「むりやり」「簡単に」出したいのだ。 そんな虫のいい話があるのだろうか。 「ないですね。」
ないのだ。
しっかりレッスンを受けた後だと、実感として分かる。 悠久の大地に甘えは通用しないのだ。 すぐできる人もいるが、声の特徴からそういった方を特定するのも難しいらしい。 のどの使い方の問題だから、とにかくやってみなくては分からないのだ。 その、どこにどれだけいるか分からない「すぐにホーミーできる人」が恨めしい。 コロッケさんだろうか。 「ホーミーに似た音」ではどうか何か手がかりが欲しい。
人でなくてもなんでもいいので、何かホーミーに似てる音は身の回りにないのでしょうかと聞いてみると、 11月のオスのシカの鳴き声がホーミーに似ている という情報を頂いた。 「11月の」 「オスの」 「シカ」 である。 カードが一枚もそろってない。 そろってはいないがシカを見に動物園に行ってみた。 ホーミーを聞かせて回る上野動物園に来た。
8月だが、シカが鳴いてくれたら聞いてみたいと思い、動物園に来た。
ついでに、僕の不完全なホーミーを動物に聞かせて回ってもし集まってでも来たら、それはある意味本来のホーミーなのではないかと思ったのだ。 オ゛オ゛オオオオ〜〜〜〜〜
オオオ〜〜〜〜〜〜
オオオ〜〜〜〜〜〜
オ゛オ゛オオオオ〜〜〜〜〜
オ゛オ゛オオオオ〜〜〜〜〜
オ゛オ゛オオオオ〜〜〜〜〜
オ゛オ゛オオオオ〜〜〜〜〜
オオオ〜〜〜〜〜〜
オ゛オ゛オオオオ〜〜〜〜〜
オ゛オ゛オオオオ〜〜〜〜〜
オオオ〜〜〜〜〜〜
オ゛オ゛オオオオ〜〜〜〜〜
最後のヤギであるが、耳と顔を少し動かしてくれて、完全に「聞いているな」という感触があった。
すごく聞いてくれている感じがした。
シカは鳴いてくれなかったし聞いてもくれなかったが、ヤギが聞いてくれたら言うことないんじゃないだろうか。
ホーミー、習得である。 そんなわけない
そんなわけないのだ。
実はこのあと風邪をひいて、習った時の喉の感覚が分からなくなってしまった。 いつか本当にちゃんと練習して習得したら、ゾウもシカも聞いてくれるかもしれない。 「ウマに向かってシャハ」をしていたら係りの方がウマの説明をしてくれました。
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