【甘口辛口】
■8月14日
俳優、渥美清さんが1996年8月4日、肺がんのため68歳で死去して、はや20年。NHKで今夏、その人生を振り返る特番や寅さん役で主演した国民的映画シリーズ「男はつらいよ」(山田洋次監督)が放送されている。そのさなか、渥美さんを恩人と慕った女性が先月30日、多発性骨髄腫という血液のがんのため、息を引き取った。
俳優、佐藤蛾次郎の妻で、43年連れ添った元女優、和子さんである。くしくも渥美さんと同じ享年68。蛾次郎といえば寅さんの弟分・源公役で有名だが、和子さんも「男はつらいよ」の第10作「寅次郎夢枕」(1972年12月公開)に出演。寅さん一家の近所に住み、嫁ぎ行く和装の花嫁を演じた。
実は、映画公開の1カ月前に蛾次郎と結婚。ただ、経済的に余裕がなく挙式はしなかった。それを知った山田監督と渥美さんが、和子さんを花嫁姿で出演させたようだ。しかも、その撮影直後、蛾次郎は訳も分からぬまま羽織はかまを着せられた。そのまま現場に居合わせた写真家、篠山紀信氏に、2人は寅さん一家と記念撮影してもらった。
それが人生で最も貴重な1枚に。夫妻で経営してきた東京・銀座のカラオケスナック「蛾次ママ」に今もある。小欄の取材に蛾次郎は当初、「そっとしておいて」とうつむいた。が、やがて重い口を開き、その写真も見せてくれた上に「きれいで明るくてゴルフ好きで…。みんなに慕われたね」と恋女房をしのんだ。
20日には、血液のがんにかかった女子中学生の実話を基にした出演舞台「友情」が開幕する。「仕事だからね。仕方ないさ」と淡々と語る71歳。つらいのは別に俺だけじゃない、と言いたそうな背中が渋くて格好よかった。 (森岡真一郎)